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瑠璃 深月
瑠璃 深月
novelistID. 41971
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忘れられた大樹 後編

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広場にハルをはじめとするシリンたちを確認したナリアは、子供たちを抱いて、根元から降り、挨拶をした。
 そして、手に持っていた弓と、三本の矢を、アースに渡した。
「風の刻印を解放できるのは私たちだけ。しかし、私には確実な腕がありません」
 そう言って、ナリアは俯いて、その美しい瞳をそっと閉じた。
「この三本の矢は、この木を封じる前、私が折っておいた枝で作ったもの。弓は、私の依り代たるブドウの木の、最もしなやかな部分を使って作りました。これならばハルの望みも叶うでしょう。しかし、肝心なところで私は役に立ちませんね」
「そんなことないわ」
 俯いたままのナリアの元に、フォーラが進み出た。
「後は射るだけ。アースの腕ならば確実でしょう」
「ですが」
 目を開けたナリアは、溜息をついた。
 賢者と呼ばれ、この惑星の叡智の全てを司る彼女の姿は、そこにはなかった。一人の人間として、自分の立ち向かわなければならない現実に絶望し、自分の無力さに疲弊していた。
「まあ」
 頭をぽりぽりと掻いて、少し照れながら、アースはナリアを見た。
「的が的だ。ナリアが手を汚すには荷が勝つんだよな。お前天然だから、外す可能性大きいし」
「アース」
天然、と、呼ばれて、ナリアは少し照れた。アースが珍しく気を使っている。無力にさいなまれている彼女の心を解き放ったのだ。責任感が人一倍強い、そんな彼女の性格を見抜いていた。
「大丈夫」
 そう言って、アースは笑った。
 すると、皆の中から、ハルが進み出てきて、母木の中心に向かっていった。
 そして、目の前に立ちふさがっている二人の子供をそっと抱いた。
「よろしくお願いします」
 そう言って立ち上がり、ハルは皆に笑顔を向けた。
 サムとカレリは、フォーラに言われてセベルとともに樫の木の下に座った。そして、セベルが二人の子供にどんぐりの実を出させ、掌で強く握っていなさいと告げた。子供たちは言われたとおりにして、どんぐりをその小さな手で包み込んで、祈るようにその掌をもう一つの手で囲んだ。
「よく見ておきなさい。それと、何があっても、どんぐりを放さないで」
 そう言われ、サムとカレリは不安げに頷いた。もとより、そう言われて放すつもりはなかった。そんなことをしたら困るのはハルだ。大好きな彼が危険にさらされるのは嫌だから、どんなことでも耐えて見せようと思った。
 準備が済むと、子供たちを囲むようにフォーラとセベルがその場に座り、ナリアはハルについて木の根元まで歩いていった。
 アースが広場の端に立ち、三本の矢をつがえ、弓を構えて、狙いを定めた。
 そして、ハルが木の根元に立ち、母木と一寸の隙間もなく寄り添ってこちらを向いたとき、アースは矢を放った。
 放たれた三本の矢は、寸分の狂いもなくハルの右肩に刺さり、その強い勢いでハルとその母木の樫の木を繋ぎとめた。
 その時、突然、サムとカレリが声を上げた。
 手に握り締めたどんぐりの実が、突然高熱を発したのだ。