校正ちゃん
自分の席に戻ってくると、机の上に1枚、A4用紙が置いてあった。
悪い予感がしてその用紙を見ると、やっぱり、あの健康診断のお知らせだった。再びけたたましい警告音が鳴りだす。どうしても抗うことはできないのか?
(誰なんだ? こんなものをココへ置いたのは! ぐぬぁあああ!!)
僕は、机のペン立てから急いで赤鉛筆を取り出すと、お知らせの「受信」の箇所にアンダーラインを引き、そこからびゅっと太い線を余白に引っ張った。そして、その先端に、これまた太く大きな文字で「受診」と書き込んだ。
そう、これが僕の使命。今を去ること1年前、よくわからないけど、異星人みたいな連中に自宅から連れ去られ、校正ちゃんを頭の中に埋め込まれてから、ずっと背負わされている十字架——。
僕は、訂正指示を入れた健康診断のお知らせを持って、総務課へ向かった。
総務課の自分の席に座ってパソコンを操作している、彼女の姿を見つけた。もちろん、健康診断のお知らせを作った娘だ。僕は、彼女のすぐ傍までツカツカと歩いて行き、目の前に、朱筆を入れたお知らせを差し出した。
「ここ、間違ってます。直して下さい」
訂正指示を見て、僕の言う意味を理解した彼女は、大粒の涙を両目に浮かべた。
「なんで、また? こんなのって、ひどい! あんまりよ!!」
彼女は、パソコンのキーボードを抱えるように突っ伏して泣き喚いた。確か、これで、彼女を泣かせるのは3度目だ。
僕の頭の中では、けたたましいビープ音が、ずっと鳴り響いていた。
——校正ちゃん1・了