小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
瑠璃 深月
瑠璃 深月
novelistID. 41971
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

忘れられた大樹 前編

INDEX|5ページ/13ページ|

次のページ前のページ
 

一方、半日かけて森を歩き、街道を出たハルは、広い草原を横切って遠くにある町を目指していた。
 草原は広く、遠くに見える街の建物にはなかなか近づかせてくれない。一歩一歩、歩みを進めながら、サムの母親に会ってどうしようかと考えていると、ハルの行く手に一人の青年が立っていた。遠くからでもよく分かる澄み切った瑠璃色の瞳に漆黒の髪、背は高く、顔立ちは端正で、その瞳は全てのものを貫くように鋭かった。白い上着を羽織っているので医者か学者に見えた。それとも学生だろうか。ハルよりも少し若いだろうか、いや、そうでもない。近づいていくうちに、その体の中に流れる大樹の記憶は、それよりもずっと長いときを生きている「感触」を彼の体に告げていた。
 ハルが近づいていくにつれ、その青年は遠くを見ていた瞳をまっすぐ、ハルのほうに向けた。
「私に、何か用ですか」
 ハルは青年にそう告げたが、彼は黙ったまま、今度はハルから目を逸らして再び宙を見た。
そして、一度だけ深いため息をつくと、もう一度ハルを見た。
「風の刻印の所持者、こんなところにいていいのか」
「どういうことですか?」
 訳が分からずに聞き返すと、青年は、ちょうど街道の脇にあった木に手を触れた。
 その瞬間、ハルの体にとてつもなく大きな記憶の塊が入ってきた。支えきれないくらい大きな記憶と、それに繋がっている多くの悲しみと憎しみ、そして、歓喜とが体中をかけ巡った。
 あまりにも多くの情報が流れ込んできて、ハルは悲しくもないのに多くの涙を流してそこに座り込んでしまった。
「この星の歴史、風の刻印はそれを見ることができる」
 青年は言った。
「まだ、受け入れることができないのか。ナリアはこのことを?」
今度は、青年のほうから訪ねてきた。表情があまり変わっていない。ハルのことをよく知っているのだろうか。ナリアでなければ知るはずもないのだが。しかし、先ほどのショックで彼女と同じものをこの青年から感じた。 ああ、そうだ、ナリアと同じならば、この青年はアースだ。次元を挟んでもう一つ存在する「地球」、ハルの住んでいる地球とは、途中から違う歴史をたどっている惑星。
「知っているかどうかは私にもわかりません。風の刻印などと、私にはとても」
 全てを悟ったハルは、目の前の青年に向かって、訴えた。
「まだ、そんなものを宿す準備はできていないのです」
 すると、青年は腰に手を当ててため息をついた。
「腕」
 そう言って、自分の腕を見せて服の袖口をたくし上げた。二の腕を出すと、その外側の部分を指差した。ハルは、それを見てハッとした。その部分には、昔から痣がある。生まれたときからついていて、消えなかった。黒子なのではない。きちんとした痣だった。
 青年は、それが風の刻印なのだと言いたいのだろう。しかし、シリンとして生を受けたとはいえ、ハルには風の刻印の所持者である自覚など微塵もなかった。
「このまま先に行けば、後悔すると思うけどな、それでも行くのか」
 話を変え、青年はそう言ってハルを見つめた。深い瑠璃色の瞳はナリアと同じものだ。しかし、彼女のように奥深い優しさを秘めた瞳ではなかった。鋭く洗練された強さを感じる。
「行かなければなりません。子供たちのためでもありますから」