太陽のはなびら
【限られた時間の幸せ(3)】
「ずいぶんと値切りましたね。最初の値段の十分の一だ」
シンは肩を落としている商人を、少し気の毒に思いながら、
ヘッドフォンを手に持って先を歩くピリカに言った。
「本当はもうちょっと値切ってもよかったのだけれど、それじゃああんまりにかわいそうだからね。五十カンで勘弁してあげたの。それに皆からカンパも貰ってたからね」
屈託のない笑顔を浮かべるピリカを見て、
シンは改めてピリカが持つしたたかな強さを確認させられたような気がした。
この人は敵に回したくないな。心底そう思った。
「それで、そのヘッドフォンっていうの、どうするんですか? それにカンパって?」
ピリカは突然振り返り、ヘッドフォンをシンの首にかけた。
驚くシンに、ピリカは包み込むような声で言った。
「シン、お誕生日おめでとう」
何が起きたのか、何を言われたのか、思考が追い付かなくてシンはしばらく固まった。
不意に、両手に心地よい温もりを感じた。ピリカが手を握っていてくれた。
「あなたはいつも頑張ってくれている。でも、たまには甘えてくれていいの。皆あなたのことが好きなんだから、遠慮なんてしちゃダメよ」
シンは、ピリカの、村人たちの優しさがうれしくて、
でも、もう長くはここにいる事が出来ないという事が悲しくて、
胸の奥が、まるで締め付けられるよう痛むのを、じっと堪えた。