太陽のはなびら
【光の花(3)】
太陽がちょうど頭の真上に来たのを確認して、シンは昼食を摂ることにした。
ピリカからもらった袋をバッグから取り出し、中の卵サンドをひとつ取る。
なんだか形がばらばらなのを見て、シンは少し笑ってしまった。
ヨハンが母に手伝ってもらって作ったというその卵サンド。
ゆっくり味わって食べよう。
そう思って口をあけたとき、誰かの声が、シンの耳に届いた。
「ヒューイ、何か言った?」
シンがたずねると、ヒューイは首を振った。
シンは耳を澄ます。どこかで誰かが迷っているのかもしれない。
(……かがすいた)
かすかだが、今度は確実に声が聞こえた。
シンは手に持っていた卵サンドをバッグにしまいこんで立ち上がる。
「どうかしました?」
ヒューイは首をかしげ、シンにたずねる。
「近くに誰かがいるみたいだ。おそらくそう離れていない。もしかしたら遭難しているのかもしれない」
シンは声のする方向を向く。声は森の道からそれた方向から聞こえてきていた。
この深い森の中、地図に載っていない道を歩くことは、下手をすると自分も遭難する可能性もある。
しかし、シンの心はもう決まっていた。
「私が止めても行くんでしょうね。坊ちゃんは」
「当たり前だよ、遭難しているなら助けないと」
「遭難じゃないかもしれませんよ」
何かを言いたそうに、けれど言えなさそうにヒューイはシンを見る。
「もし、仮に遭難じゃなくて、この森の中にいるのなら、目的は一つだろうね。でもだったら、なおさ
ら僕は行かないといけない。自殺なんて馬鹿げてる。話を聞いてくれる人がいるだけで、大分違うもの
だからね」
「坊ちゃんまで遭難してしまうかもしれません」
「そうなったら」
一呼吸おいて、シンは言う。
「それが僕の寿命だったってことさ」