太陽のはなびら
【第五章:光の花】
「今日は月がきれいだ」
月明かりで、青白く光る森の中を歩きながら、シンは夜空に浮かぶ月を眺める。
肩にとまったヒューイが、シンに語りかける。
「覚えていますか。坊ちゃんが私と旅に出た最初の夜も、今日の様な、綺麗な月でした」
シンは頷く。
「そうだね。泣きたくなるくらい綺麗だ」
「素晴らしい村でしたね」
「うん。けれどヒューイは辛かったろう。僕が響覚を使わずにいたから、お前の好きなお喋りもできなかったしね。でも大丈夫。今日からまた自由に喋られるよ」
シンは明るい声で言った。ヒューイは哀しそうな顔をして、シンを見る。
「失礼を承知で言いますが」
ヒューイはそう前置きして話す。
「坊ちゃんのこういうときの笑顔。私はあまり好きではありません」
シンは少し驚いた顔でヒューイを見た。
「坊ちゃんは本当に辛い時、いつもそうやって笑います。辛い時は辛いと言ってください。坊ちゃんのその笑顔を見ると、私はいたたまれないのです。坊ちゃんのような方がなぜ、こんな目にあわないといけないのか。私にはわかりません」
シンは人差し指の腹でヒューイの喉をなでる。
「仕方ないよ。たぶんこれはもう仕方ないんだ」
ふと、シンは立ち止まり、後ろを振り返った。
月明かりだけの深い夜の森をじっと見つめると、
まるで、今まで進んできた道が、
初めから存在しなかったかのような錯覚を覚える。
しばらくその闇を見つめていると、
なんだか闇に自分が飲み込まれるような錯覚に襲われる。
まるでそんな考えを振り切るように、シンはきびすを返し、再び歩き始めた。