太陽のはなびら
【偽りは涙の味(3)】
外に出ると、太陽は沈み、あたりは暗くなっていた。
村は静まり返っている。まるでゴーストタウンのような静かさだった。
シンは黙って村の出口に向かう。
村の出口である門の近くまで来て、門をくぐろうとした時に、ふと背後に人の気配がした。
「待って」
振り向くと、そこにはピリカが立っていた。
手には何かが入った袋を一つ。お互い、しばらく何も言わなかった。
鈴虫の鳴き声だけが、辺りを包んでいた。
「ピリカさん。今まで黙っていてすみませんでした」
シンは頭を下げた。謝って解決する問題ではなかった。
けれど、それ以外、思いつかなかった。すると、後頭部にゴツンと軽い鈍痛がした。
「スイマセンなんて言わないでよ」
顔をあげると、ピリカは拳を握り、うつむいていた。
「シンはいつもそう。人に何も言わないで、全部自分のせいにして。お願い。スイマセンなんて言わないで。あなたは何も悪くないのに。自分を傷つけるのは、もうやめて」
あたりは暗くて、ピリカがどんな表情で喋っているのか解らなかった。
ピリカの声は、かすかに震えていた。
ピリカは手に持っていた袋をシンに渡す。
「さっきお母さんがね、シンのために作ってくれたの。これなら食べちゃえば荷物にならないし、シンが喜ぶだろうからって。ヨハンも一緒に手伝ったんだよ」
中を見てみると、シンが好きな卵サンドが入っていた。
「お父さん。あの時は厳しい事言っていたけど、家に帰ってから泣いてた。あのお気楽なお父さんがだよ? シンはいつもみんなのために頑張ってきたのに。シンが一番つらい時に追い出すような真似しかできない自分は村長失格だって」
ピリカは続ける。
「お父さんの知り合いの人が森を越えた街にいるの。さっき伝書鳩で事情を説明した手紙をその人に送ってた。その人はあなたの様な人を手助けしているから、その人に会いに行きなさいって。袋の中に連絡先と紹介状が入った封筒が入っているわ」
ピリカは止まらぬ涙を、服の袖で顔をぬぐいながら話し続ける。
「シン、あなたがどんな力を持っていようと関係なかった。初めてあったときから、あなたのその深い悲しみに満たされた瞳を見たその時から、ずっと、あなたを助けたかった。守りたかった。私は、あなたのことを、あなたのことが……」
シンは無言でピリカに背を向ける。
「どこかで、いつかまたあえるよね?」
ピリカはすがりつくような声でシンに語りかける。シンは振り向かず、静かな声で一言だけこう言った。
「僕はもう二度と会いたく無いです。僕のことなんて、忘れて下さい」
ピリカの呼び止めようとする声を振り切るかのように、シンはロコロ村の門をくぐり、深い森の中に足を踏み入れていった。
ピリカは大粒のナミダを流しながら、誰にも聞こえないような小さな声で、呟いた。
「シンのバカ。泣き声でそんなこと言っても、説得力無いよ」