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FLASH BACK

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「感激している暇はないよ。急かして悪いけど、スタイリストも無理して呼んだ手前、時間が限られてるんだ」
 そう言う広樹の前に、理恵がやってきた。
「おめでとう、沙織ちゃん。まずはメイクルームで着替えて。終わったらすぐメイクして、撮影は会議室でやるから。それが終わったら学校まで送ります」
「はい。よろしくお願いします」
 登校までのスケジュールを知らされ、沙織は言われるがままメイクルームへと向かう。そこには出来上がったばかりのドレスがあり、今まで何度か打ち合わせでデザインは知っていたものの、その美しさに息を呑んだ。

 それから数十分後。すべての準備が整った沙織は、メイクルームから会議室へと向かっていった。すると中にはすでに鷹緒が戻ってきており、スクリーンやライトなどの本格的機材が並べられている。
「わあ。沙織ちゃん、すごく綺麗!」
 社員たちがそう言う中で、鷹緒はまたも苦笑する。
「だから俺のセリフ取るなっての……」
 そう言いながら鷹緒が見つめるので、沙織も照れるように笑った。
「鷹緒さんってば、おかしいの」
「なにがだよ……時間なくなってきたから、早く撮っちゃおう」
「うん。お願いします」
「こちらこそ。でもその前に、これ……」
 鷹緒は突然、ジュエリーケースを差し出した。中にはイヤリングが入っている。
「え?」
「卒業祝い。ドレスデザイナーと一緒に選んだから、似合うと思うよ」
 ゴージャスに光り輝くイヤリングは、確かにドレスの色と合っている。
「いつの間に? こんなことまでしてもらっちゃって……」
「こんなことくらいしか出来ないけどな」
「すごく嬉しい! ありがとう」
 沙織はイヤリングを耳につけると、鷹緒を見つめた。スタッフたちもその場に数人いるため、それ以上のことは何も出来ないが、本当は抱き合いたい気分である。
 そんな気持ちを鷹緒も持ちながら、振り切るようにカメラ前に立った。
「じゃあ始めよう」
 その声で、沙織は背景スクリーンの前に立ち、鷹緒が構えるカメラを見つめた。さすがに撮影には慣れてきており、カメラマンが鷹緒でも緊張しなくなっているが、気を抜けば照れや恥ずかしさが込み上げてしまうので、沙織は必死に耐えている。
 一方の鷹緒も、いつもと違う雰囲気となるくらい最高に着飾った沙織を直視出来ないでいた。それが自分の彼女や親戚だと思うと顔が緩みそうで、それを隠すように苦笑するしかない。
「よし、オーケー!」
 やがて鷹緒の声が上がり、沙織は微笑んだ。
「成人式に続き、一生の思い出だよ」
「そう言ってもらえるなら、こっちとしてもよかったよ……じゃあ行こうか」
「送ってくれるの?」
「迎えには行けないけどな。時間ないから行くぞ」
 鷹緒に促され、沙織はそこにいるすべての人に礼を言って、鷹緒と一緒に会社を出ていった。
 すると会社の前には、朝と同じように広樹が車を停めて待っている。
「おお! すごく綺麗だよ、沙織ちゃん」
 そんな広樹の言葉に頬を染め、沙織ははにかんだ。
「ありがとうございます。しっかりプロデュースしてもらっちゃった感じです」
「それはよかった。僕らは学校に行くまでしかプロデュース出来ないけど、その姿なら一日中、注目浴びること間違いなし! 大成功だね」
 そう言いながら広樹は沙織を助手席に乗せ、また自らも後部座席へと乗り込む。その間に運転席に着いていた鷹緒は、すかさず車を走らせた。
「しかし惚れ惚れしちゃうなあ。間違いなく卒業生の中で、沙織ちゃんが一番綺麗だよ」
「ヒロ。それ以上おまえが言うな」
 思わず止めた鷹緒だが、逆に広樹は目を細める。
「妬いてんの?」
「……黙れ」
「じゃあおまえが何かしゃべれよ。顔が緩みそうなのわかるけど」
 茶化す広樹の言葉を聞きながら、鷹緒も余裕がないように苦笑する。
「いや本当……綺麗だと思うよ」
 珍しく素直に褒める鷹緒の横顔を見て、沙織は一気に顔を赤らめた。
「や、やっぱ鷹緒さんは、私を褒めなくて大丈夫」
「なんで?」
「なんでも」
 首まで真っ赤になった沙織の照れや嬉しさは後部座席の広樹にも伝わり、まだまだ初々しい二人に溜息をついて座り直す。
「お熱いねえ。こんなことなら付いて来なきゃよかったかな」
「おまえのプロデュースだろ。最後までやれよ」
 そうこうしているうちに、車は学校の前に着いた。学校といってもビルであり、今日は卒業式なだけあって、ビルの前には人だかりが出来ている。
 そんな中で、鷹緒のオープンカーが颯爽と止まった。すかさず助手席のドアを開ける広樹のパフォーマンスに、学校前にいた一同の目は釘付けになる。沙織と同時に降りた鷹緒もまた注目を浴びていた。
「なんか、さらし者みたいだな」
「それがいいんじゃん。優越感を感じましょうや」
 広樹の言葉に苦笑しながらも、鷹緒は事前打ち合わせの通り、沙織の手を取って歩き始めた。
「入口までだけど、エスコートしますよ」
「は、恥ずかしい……」
「俺も」
 そう笑い合いながらも、鷹緒と沙織は学校のビルへと向かっていく。すでに同級生なども見ており、広樹が言う通り、確かに優越感なるものも沙織を包んでいた。
「卒業おめでとう。最後の行事やっておいで」
 そんな鷹緒の言葉に頷くと、沙織は鷹緒を見つめる。
「……今度はいつ会える?」
「夜ならいつでも会えるよ」
「じゃあ明日だね。今日は実家に帰るから」
「ああ。たまにしか帰らないんだから、ゆっくりしてこいよ。今日も挨拶出来ないけど……よろしく言っておいて」
「うん、わかった」
「じゃあ行ってらっしゃい」
「行ってきます。ありがとう。鷹緒さん、ヒロさん」
 大きく手を振りながら、沙織は学校の中へと入っていった。
 登校した沙織が、同級生のみならず下級生や教師にまで、注目の的だったのは言うまでもない。沙織は幸せ絶頂の中で、学生最後の卒業式という行事を味わっていた。


作品名:FLASH BACK 作家名:あいる.華音