FLASH BACK
「鷹緒さんは優しいよ。そういうことさらっと出来るのは好き……」
「じゃあ俺の性格なのかな……思い起こせば、母親の教育っていうのもあるかもしれないけど……」
それを聞いて、沙織は鷹緒を見つめた。
「え?」
「昔、おまえも言われなかった? 人には優しくって」
「ああ……そういうこと?」
「うちの母親は、特に女の子には優しくって教えだったんだよな……さっきはおまえが言うように、人目につかないところで出来たんならベストだったと思うし、おまえがおまえだけに優しくしろって言うんなら努力する。だからお願いだから、もう泣かないで……?」
沙織の涙を指で拭いながら、鷹緒はもう他の術を知らずに、ただ謝るしかない。そんな鷹緒に、沙織は思わず微笑んだ。鷹緒が可愛く見えて、おかしく思えてきたのである。
「もう鷹緒さんたら……いつもいつもずるいなあ……」
やっと笑った沙織にほっとして、鷹緒は濡れた沙織の頬にキスをした。
「ずるいのはおまえだろ。泣かれたらこっちは何も出来ないよ……」
「泣かせるほうが悪いの。もう……今年は泣きたくないと思ったのに」
「ごめん……好きだよ……」
その言葉ですべてを許してしまいたくなり、沙織は目をつぶる。
そんな沙織の唇にキスをして、鷹緒はもう一度沙織を抱きしめた。実際問題、自分の行動すべてに反省など出来なかったが、別れを考えると怖くなる自分がいる。そう思えば、沙織の不満すべてを解決したくなった。それには自分が変わらねばと思うが、そう出来るかの不安はいつも付きまとっている。
浮かない顔の鷹緒に、沙織は抱きついた。
「私もごめんね……」
やっと仲直り出来たと思い、鷹緒は安堵して微笑む。
「俺は……またきっとおまえを泣かせるんだと思う。そうならないように努力はするけど、そんな時は構わず俺を殴っていいし、もっとわがまま言っていいよ。その時、俺が受け止められるかはわからないけど、全部ぶちまけてくれたほうが楽……」
疲れたように沙織を抱きながら、鷹緒がそう言った。努力はしても、理恵と同じ職場である限り、同じような問題は出てくるかもしれない。いちいち気にするべきことではないのだが、沙織はそれでもショックを受けるのだろう。
一方の沙織にも鷹緒の気持ちは痛いほどわかっており、それを受け止められない自分も嫌で仕方がない。それでもそう言ってくれる鷹緒に、今は甘えようと思った。
「じゃあ……今度一日だけでいいから、私のことだけ考えて?」
「いつも考えてるんだけどな……」
「悪いけど、実感出来てないよ?」
「わかったよ。他の電話も出ないし、おまえ以外に会わなきゃいいんだろ? 今度の休みはそうしよう」
少しわがままの度が過ぎたとも思ったが、沙織は鷹緒の胸に不安な顔を埋め、鷹緒もまた沙織の心を取り戻せて安堵する。
二人にしかわからない不安や恐怖は、二人だけが解決するのだろう。その日鷹緒は、そのまま沙織の部屋に泊まり、一晩中愛しい顔を見つめていた。
作品名:FLASH BACK 作家名:あいる.華音