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FLASH BACK

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「ごはん食べて家に帰るくらい大丈夫よ。タクシー使うし」
「ったく……そんなひょこひょこ歩かれたんじゃ、危なっかしくて見てられないっつの」
 鷹緒は応急処置を終えて立ち上がると、まるで介護するように理恵の腕を掴む。
「恥ずかしいからやめてよ」
「じゃあおまえがつかまれよ」
 言われるままに理恵は鷹緒と腕を組むが、口を曲げた。
「私が悪いんだしありがたいんだけど、こんなところ誰かに見られたら……」
「あ、そうだ。沙織に電話しなきゃ……」
 そう呟いた瞬間、二人は同時に固まった。同じ歩道で、沙織が対面する形で立っていたのである。その表情は固く険しく、明らかに怒っている。
「ヤバイ……」
「ヤバイかもしれないけど、浮気してるわけじゃないんだから……ね」
 鷹緒と理恵は妙に気が合うようにそう呟きながら、沙織を見つめた。
 後ろは赤信号で戻れず、逃げ場を失った沙織は、意を決して二人がいる方向に歩き出した。
「お疲れ様です……」
 何も言わずに通り過ぎるのは気が引けて、強張った表情のままそう言うと、沙織はそのまま二人の横をそのまま通り過ぎようとする。
 そんな沙織の手を、すれ違いざまに鷹緒が掴んだ。
「沙織」
「誤解よ、沙織ちゃん。ほら見て。私、靴擦れしちゃって、それで鷹緒さんが……」
 そう声を掛ける鷹緒と理恵に、沙織は顔を顰めて振り向いた。
「いい加減にしてください! わかってます。お二人が何もないこと……」
 言いながら涙を溜める沙織を見て、鷹緒は沙織の肩を抱こうとする。だが、沙織はそれを頑なに拒んだ。
「沙織。話聞いて」
「もうやだ……」
 沙織の口から小声でそんな言葉が漏れ、涙が溢れ出した。その間にも、鷹緒は指で沙織の涙を拭う。
「沙織?」
「もういいよ……」
 力なくそう言って、沙織は歩き出す。そんな沙織に、鷹緒は理恵を放ってついていった。
「いいってなんだよ。話聞け」
「だから、もういいってば。放っといて!」
 沙織はそう言い放つと、赤信号に変わりかけた信号を走って渡っていった。
 もう追いつけずに、鷹緒は顔を顰めて理恵の元へと戻っていく。
「何してんのよ。追いかけなさいよ」
「いや……今、何言っても無駄」
「たとえそうでも追いかけなきゃ駄目でしょ。ああもう……私が追いかけようか?」
「お義父さん待たせてるんだから行こう。俺も頭冷やしたい……っていうか、解決策考えたい」
 そんな鷹緒に、理恵は溜息をついた。
「今回の件は私も悪いけど、頭で考えるから駄目なのよ」
「おまえが言うのかよ」
「お父さんは鷹緒が忙しい人なの知ってるから、急用出来たって言えば大丈夫。ほら、追いかけて。私も後でいくらでも弁明するから、ちゃんと正直に話すのよ」
「……わかった。じゃあ、お義父さんによろしく言っておいて」
 理恵に後押しされ、鷹緒は沙織が去っていった方向へと走っていく。沙織が行きそうな場所の見当はつかないが、方向的に沙織の家だと思った。

 沙織のマンション近くで、鷹緒は沙織の姿を発見し、ひとまず安堵する。
「沙織」
 鷹緒は沙織の手を掴み、真剣な顔で見つめた。沙織は無言で視線を落としながら、涙を零しているだけだ。
「ごめん……」
 泣いている沙織にどうしていいかわからなくなり、鷹緒はそう言った。しかし沙織は何も言わない。
「……ちゃんと話したい」
「だから……わかってるって言ってるでしょ」
 震える小さな声で、沙織がやっとそう言った。
「……沙織」
「鷹緒さんが言いたいこととか、誤解だとか、何もないとかわかってる……問題は私の気持ちだけなんだもん」
 人通りの切れない歩道で立ち止まった二人は、それ以上何も言えないでいた。
 鷹緒は人目を気にしつつも、目の前でただ泣くだけの沙織の肩をそっと抱く。さっき拒まれたことで少し勇気がいったのだが、今度は沙織も拒まない。
 そのまま鷹緒は沙織とともに、沙織のマンションへと入っていった。

「……話聞いて?」
 ソファに座らせた沙織の前で、鷹緒が膝立ちでそう言った。沙織は何も言わずに顔を伏せているので、鷹緒は言葉を続ける。
「まず……今日は恵美が理恵のお父さんに買ってもらった着物を着て、写真を撮りたいって言うから、撮影することになったんだ。理恵はもうずっと実家に帰ってなかったけど、お母さんが体調崩したっていうんで、正月久々に帰ったら、相容れなかったお父さんともやっと少しわだかまりが取れたって……俺も知らない仲じゃないし、撮影くらいなら引き受けようと思った。ぶっちゃけ、恵美には会いたかったしな」
 正直に話し始める鷹緒だが、沙織は表情を暗くしたまま聞いている。目の前には鷹緒がいて、とても逃げられそうにない。
「撮影終えてから食事に行こうって言われて断ったんだけど、どうしてもって言うもんだから、今後そうあることじゃないし、受けようと思った」
 沙織は口を結ぶと、やっと鷹緒を見つめた。
「私が怒ってるのは、そのことじゃないよ? あんな……理恵さんと、人目もはばからず足とか触っちゃって……」
 それは誰の目から見ても、似合いの二人に見える光景だった。相手が理恵でなく他の人や自分だったらと思っても、あれだけ似合うカップルはいないように思ってしまう。
「……それはあいつが靴擦れしてる上に、足挫いたりもして辛そうだったから……」
「だから私の気持ちだけなんだってば。私だけに優しくしてなんて言えないし、あれが理恵さんじゃなくても、鷹緒さんはそう出来る人だってわかってる。でも……もっと方法はあったんじゃない? 外でやらなくてもよかったし、あんなとこ見せられたら、私でなければ誤解してる」
 不満をぶちまける沙織に、鷹緒は真顔のまま頷いた。
「そうだな……ごめん」
「鷹緒さん、わかってないよ……私から見えるところで、他の人に優しくしないで……」
 すぐに自分で後悔するほどの言葉に、悲しさや惨めさが襲って、沙織の目からは一気に涙が溢れ出す。
 鷹緒は小さく溜息をつくと、沙織の横に座りその身体を抱きしめた。
「ごめん……もうしないから……」
 後悔し反省する真剣な鷹緒の態度は、許してしまいたくなる。でもそれに甘えて許してしまうことが、沙織にとっては悔しくもあり、逆に仕方のないことにも思えて、心揺れたまま鷹緒の顔を見つめる。
「無理だよ……鷹緒さん、優しいもん。気付いてないなら尚更ひどい」
 真っ直ぐに自分を見てそう言った沙織に、少し和らいだ雰囲気を察して、鷹緒は優しく微笑んだ。
「そうか。俺、優しいんだ?」
「うん……」
「俺がおまえのこと不安にさせるくらい他人に優しいなんて、今の今まで聞いたことないよ。でもそれが本当なんだとしたら俺も気を付けるし、おまえに我慢しろなんて言わない……俺は今、おまえに謝ることしか出来ないし、おまえが泣くとどうしていいのかわからなくなるよ……」
 もう一度抱きしめながら鷹緒が言った。それでも沙織の涙はとどまることを知らない。
「……私が言ってるのは人格否定だよね。人に優しくしないでなんて……本気で言ってるわけじゃないんだけど……」
「いいよ……おまえは俺の彼女なんだから。しかし、そんなこと考えたこともないんだけど」
作品名:FLASH BACK 作家名:あいる.華音