FLASH BACK
「……鷹緒にとっては苦い思い出かもしれないけど、私は今でも思い出すと嬉しいし感謝してる。結果的に別れて、思い出したくもないかもしれないけど、だったらそれ以上の思い出作って。まあ、私が言うことじゃないけどね」
理恵の言葉を聞いて、鷹緒もまた苦笑した。
「やりたくてももう出来ないから、俺も胸にしまっておくよ。苦い思い出にはなったけど、思い出したくないわけじゃない。あの頃の俺を労ってやりたいよ」
「そうね……」
「じゃあな」
そう言って、鷹緒はタクシーで家へと戻っていった。
家に着くと同時に、鷹緒の携帯電話が鳴る。
「はい」
『沙織です。今、大丈夫?』
沙織からの電話に、鷹緒は無意識に微笑む。
「うん……ちょうど今、家に着いたとこ。どうした?」
『帰ったんだね。今から行ってもいい?』
「べつにいいけど、女子会は?」
『終わったよ。じゃあ、すぐ行くからね!』
軽い興奮状態とみられる沙織は、そのまま電話を切った。鷹緒は首を傾げながらも部屋に上がり、飲み足りないので冷蔵庫のビールに口をつける。
それからしばらくして沙織がやって来た。その姿を見ただけで癒されるように、鷹緒は優しく微笑む。
「いらっしゃい」
「急にごめんね」
そう言う沙織は、外でのイベント仕事と女子会後で高揚したテンションを引きずるように、明るく微笑んでいる。
「いや。でも飲み会にしては早かったじゃん?」
「飲み会じゃないの。イベント終わってから、家で麻衣子たちと一緒にチョコ作る約束しててね。もうみんなで大騒ぎ! はい、まだ完全に固まってないと思うけど、出来たてほやほやだよ」
沙織は鷹緒に小箱を差し出して言った。
今日はチョコレートをもらうどころか会えないと思っていた鷹緒は、そんな沙織からのプチサプライズというべき行為に、素直に感動する。
「すげえな……手作りチョコなんて作ってる暇ないと思ってたのに」
「生チョコなんだ。ちょっといびつだけど、心は込めたよ」
「ありがとう。うまい」
早速一口を食べて、鷹緒は微笑んだ。その笑顔につられるように沙織も微笑む。
「よかった。今日渡せて」
「俺も今日会えてよかった」
鷹緒は沙織の髪を撫でると、唇にそっとキスをした。
「チョコレートの味がする」
そう言った沙織に、鷹緒はもう一度キスをして抱きしめた。他愛もないこの瞬間は、あまりにも穏やかで温かく、十五年前の今日にはない輝きがあると素直に思える。
「沙織……これからもずっと一緒にいて」
思わず出た鷹緒の言葉に、沙織は頷いて鷹緒の背中に手をやった。
「うん。来年もその先もずっと、バレンタインにはチョコ作るからね」
「うん……」
そんな小さな約束が、二人を温かく包み込んでいた。
作品名:FLASH BACK 作家名:あいる.華音