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FLASH BACK

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「それは俺の作戦っていうか、いい写真撮るテクニックだったはずなんだけど……本当言うと、その撮影のことは全然覚えてないんだ」
「え?」
「その後、俺、倒れてさ……」
「倒れた?」
 鷹緒は力なく微笑む。
「撮影終えて加工して、出来上がりのデータ送って……その夜、熱出して倒れて、三日寝込んだ。ヒロが心配してるのはそれ」
「……どうして? どこか具合が悪かったの?」
「うーん。格好悪いから言いたくないんだけど……神経系の病気でね。簡単に言うとストレスだな。忙しかった時期だったし、離婚後だったし、父親のせいだけではないと思うんだけど、倒れて仕事に穴開けたのそれが初めてだったから、周りに迷惑かけてヘコんだし、あんまりいい思い出じゃないんだよな」
「ストレス……」
「結構大変だったんだぜ? 起き上がれないくらいだし、吐いて物も食えないし、ヒロはそれ目の当たりにしてるから心配するのも無理ないけど、仕事のこと考えたら休んでもいられなくて、頑張って三日で退院させてもらって、それからもしばらくは薬漬けだったし、あれはちょっと辛かった」
 かける言葉が見つからず、沙織は鷹緒の手を取った。そんな沙織に、鷹緒は微笑む。
「よしよし、して?」
 思いがけない鷹緒の言葉に、沙織は微笑みながら鷹緒の頭を撫でる。すると、その手を鷹緒が取り、沙織を抱きしめた。
「駄目だな、俺……ヒロにもおまえにも余計な心配させて。俺は大丈夫だと思ってるんだけど……やっぱり傍から見ると、大丈夫じゃないみたいだな」
「大丈夫だよ。今は私がついてるから」
 無責任にも無謀にも思える大きな沙織の言葉が、鷹緒の心を温かくする。
「……おまえの母親が言ってたんだけどさ、ちゃんとおまえのことつかまえてろって……」
「お母さんが? やだ、恥ずかしいなあ」
「おまえも……俺のことつかまえといて。情けないけど、たまに引きずられそうになるんだ」
「どういうこと?」
「……過去に、かな。おまえにもあるだろ。思い出したくないのに思い出しちゃうような過去」
「うん……わかった。じゃあ引きずられないように、ちゃんと私がつかまえておくから」
 わざと明るくそう言って、沙織は鷹緒の頬にキスをする。それだけで鷹緒の顔にも笑顔が零れた。
「俺も単純だな」
「それは私のおかげでしょ」
「そうだな。おまえがいる限り、俺は大丈夫だって思えるよ」
「うん」
 真っ暗な喫煙室、ビル街の光を浴びて、二人はそっとキスを交わした。
 沙織はしっかりと鷹緒の腕を掴んでいた。鷹緒の心に潜む暗い過去や辛い記憶を、少しでも癒せればと思う。そして二人でそれを分かち合うために強くなりたいと願う。
 鷹緒もまた沙織を抱きながら、過去に引きずられないよう目の前の沙織を見つめた。それだけで、未来が見える気がする。
 お互いに癒されるように、二人は温もりを感じ合っていた。



作品名:FLASH BACK 作家名:あいる.華音