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FLASH BACK

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 そんな沙織の言葉に心が救われる気がして、鷹緒は思わず沙織を抱きしめる。
「なんで……そんな強くいられるんだ? さっきまで昔の俺とあいつ見て、ショック受けてたくせに……」
 それを聞いて、沙織は鷹緒を抱き返す。
「私は……私がいることで、鷹緒さんが無理したりするのが一番嫌だから。本当は、理恵さんの名前を口にする度に嫌だなって思う。でも仕事上の理恵さんは私も尊敬してるし、これからだって過去も理恵さんも、鷹緒さんから消すことなんて出来ないでしょう? だから……私は鷹緒さんに、正直でいてもらいたいの。それで私が傷つくことがあっても、ちゃんと正直に話して理解し合えて、最後にはここに戻ってきてくれれば満足」
 鷹緒にとって年下の沙織が、年上にさえ見えた。さっきまで小さい子供のように泣きそうになっていたくせに、今では大人の女性のように大きな器を持って鷹緒を包み込んでくれる。恋人として未だまったくもって未知数の沙織に、鷹緒はどんどん惹かれていくのを感じ、沙織をぎゅっと抱きしめた。
「ありがとう……今の俺は理恵がどうこうというより、恵美のことが心配……」
 正直な鷹緒の言葉に、沙織は優しく微笑む。
「鷹緒さん、恵美ちゃんのこと、本当に大事にしてるんだね」
「……どうかな。でもそれはやっぱり、他人の子だからだと思うけど……」
 思わぬ鷹緒の言葉で、沙織は驚いた。
「え?」
「語弊があるかな。自分の子供なら、愛しいとか憎らしいとかあるだろうけど……身内であって他人だからな。いい位置関係にいるから、素直に可愛いとだけ思えるんだと思うよ」
 その真意までは沙織にはわからなかったが、頑なだった鷹緒が自分に見せる素直な部分に、沙織は嬉しくなる。
「うん……じゃあもう行こう。送ってくれるんでしょ? 帰りに理恵さんのとこに寄りなよ……」
 それを聞いて、鷹緒は沙織の唇にキスをする。
「……じゃあ先に寄るから、一緒に行こう?」
「え? いいよ、そんな……お邪魔しちゃ悪いし」
「家には上がらない。車で待っててくれてもいい。おまえだって恵美のこと心配なんだろ?」
「そうだけど……」
「とりあえず出よう」
 二人はそのままマンションを出ていった。

「私、理恵さんがどこらへんに住んでるのかも知らないや……」
 沙織がそう言ったので、鷹緒は軽く頭を掻く。
「それは……なんで俺が知ってるのかって聞いてる?」
「やだなあ。思っててもそんなこと聞かないよ」
「思ってんだ……」
 鷹緒は苦笑しながらも、車を走らせる。
 その時、鷹緒の携帯電話が鳴ったので、車は路肩に止まった。
「はい」
『理恵です。今、大丈夫?』
「ああ。恵美は?」
『うん。やっぱり家に帰ってた……一人で帰れるっていう自立心も出てきたんだと思う』
「そうか。無事ならとりあえずよかったよ。そっち向かおうと思ってたんだけど、大丈夫だな?」
『ありがとう、大丈夫。心配かけてごめんね』
「いいよ……じゃあな。おつかれ」
 鷹緒は電話を切ると、助手席の沙織を見つめる。沙織もまた心配そうな顔で鷹緒を見つめていた。
「恵美ちゃん、無事だって?」
「うん。一人で家に帰ったって。ちょっと反抗期みたいだから気を付けないと……でも大丈夫そうだよ」
「よかったあ」
 喜ぶ沙織に微笑むと、鷹緒は再び車を走らせる。
「こんなことなら、もう少しゆっくりすればよかったな……」
 思わずそう漏らした鷹緒に、沙織は笑う。
「でも無事だったんだからよかったじゃない。恵美ちゃん、本当に可愛いから、そんなことあったら心配だよね」
「それ言ったらおまえもだよ。あんま夜出歩くなよ」
「出歩かないよ。それに私は大人だから」
「大人ねえ……」
 互いに嬉しくなって笑いながら、車は沙織のマンション前に着いた。明日は沙織が早朝から仕事だというので、今日は帰ることになっていたからだ。
「今日はありがとう」
 そう言って、沙織は鷹緒を見つめる。今日は食事をして一緒にいただけだが、それだけでも幸せと思える。
「いや……変な心配かけてごめんな。明日は早く終わるんだっけ?」
「心配のうちに入らないから大丈夫。うん、明日は早く始まる分、早く終わる予定だよ。鷹緒さんは明日、久々の一日休みなんでしょう? ちゃんと休んでね。終わったら連絡していい?」
「していいんじゃなくて、しろよ」
 命令口調なものの、そう言う鷹緒の顔は可愛らしい。そんな鷹緒に、沙織は満面の笑みで応えた。
「わかった。じゃあ、また明日……」
 沙織がマンションに入るのを見届けて、鷹緒は車を走らせる。他愛もない日常が愛おしく、「また明日」と言える関係が、これほどまでに温かいものなのかと、その優しさは鷹緒の心を温かく包む。
 小さな不安も悩み事も、二人にとってはもう簡単に解決出来る問題であり、互いが歩み寄ろうとしていることに、その未来も二人にとって明るいものであると信じられる気がした。



作品名:FLASH BACK 作家名:あいる.華音