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超短編小説  108物語集(継続中)

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「そうだね、お兄さん、賑やかしに、この煌びやかな熱帯魚たちはどうだい?」
 お母さんは並べてあるグラビアギャル写真集を手に取り、高見沢に見せ付けた。
 高見沢は目が一瞬くらっと眩んだが、「お母さん、熱帯魚って眺めるだけじゃん。僕ちゃんは、もっと腹の足しになるのが好みなんだけどね」と切り返した。

 するとどうだろうか、オカンは高見沢を真正面に見据えてきた。
「じゃあ、昔食べたお魚で、熟年になって食べ直したら、また違った味がするかもよ。そうそう、ちと骨っぽいけど、芥川で獲れた――蜘蛛の糸なんかはどうだい?」

 高見沢はこのタイトルで心の奥底にある的を射られた。そして絶句。高校時代へとフラッシュバックし、とにかくこのお薦めに嬉しくなる。
「ピッタシカンカンだよ。俺、そんな魚をもう一回味わい直したいんだよなあ」
 こう呟いた。だが止せばよいのに、さらに調子に乗って物申してしまう。

「お母さん、いいね。だけど俺、欲を言えば、その骨プラス、もうちょっと絶滅危惧種ぽくって、ドキドキハラハラして……、要は洋物の、哀愁もあるオトトがもっといいのだけど」
「お兄さん、また難しいことをおっしゃいまして。絶滅危惧種ぽくって洋物……、古代魚シーラカンスの土佐日記では和物だしね。そうそう、あったよ、お探しの最高の洋物傑作魚が」

「えっ、それって……、人魚?」
「バーカ! 人魚は人類だよ」と訳のわからないことを口にして、あとは自信たっぷりに、オカンは言い切った。

「マダー・オン・ザ・オリエント・エクスプレス(Murder on the Orient Express)だよ」
 これを耳にした高見沢、鱗から目が、いや目から鱗がポロポロとこぼれ落ちた。

「うーん、なるほど、オリエント急行の殺人か。確かにもう一度読み直したいなあ」と得心し、後の言葉が出てこなかったのだ。