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超短編小説  108物語集(継続中)

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 僕にはわかっていた。なぜ君がここに来て、どうして今、ここにいるのかを。そして、なぜそこまで、無言のままなのかも。
 僕は感じ取っていたのだ、匂いを。
 君の心の奥底にある、そう、あいつの……嫌みな獣臭を。

「ごめん」
 僕は君に短く謝った。君は黙ったまま、さもありなんと頷いた。
 それはまるで、僕が「ごめん」のひと言に包み込んでしまった感情を慮(おもんばか)ったかのように。おそらく、僕は君を抱き締める気分になれない、そう見透かしたのだろう。
 そんな冷徹な仕打ちに、君は反発するかのように、ただただ冷えた身体の震えを抑え込んでいた。僕たちの間に長い沈黙が、それからずっと……、さらにずっと続いていった。

 だが、やっとのことだった、君は蘇生したのかぽつりと口を開いた。
「ねえ、雨の中を一緒に歩いて欲しいの」
「そうしようか」

 とにかく僕は飛び出したかった。この小さな部屋の中に充満する君との気まずさ、それから逃げ出したかった。