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超短編小説  108物語集(継続中)

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「傘は?」
 僕は君に尋ねた。しかし君は短く「いらない」と。
外は季節外れの小夜時雨。無色透明のまま、真っ暗な夜空より、さあ−さあ−と降っていた。
 僕たちは押し黙り、みすぼらしく濡れながら、まるで終わりがないかのように歩き続けた。そして疲れ、ぼんやりとした街灯の下で、君は不意に立ち止まった。

「ねえ、これでわかって欲しいの」
 君の声が雨に湿っていた。僕は君に向き合って、「何が?」と訊いた。
「無臭の雨でね、匂いが……洗い流せたわ」
 君はきっと見抜いていたのだろう、僕の苦しみと、そして躊躇も。

「そうかもな」
 僕は軽く相槌を打った。すると君は、僕の腕にしっかりと纏わりついてきた。そして、いつの間にか君に、キラリと光る涙が……。 街灯の灯りを吸収し、一粒そして一粒と雨に融合し、落下していく。

「私の心は、これで……、もう綺麗だよ」
「そうだね」

 君は一拍おいて、すべての過去をまるで断ち切るかのように、僕に求めてきた。

「だから、今、ここで……キスして」