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超短編小説  108物語集(継続中)

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 それは満月の夜でした。
 二つの大河が合流する地点へと桜並木が伸びる背割り堤。未だ未熟なままの薄紅花が月光にむしろ青白く浮かび上がり、そのトンネルはまさに地の果てへと貫いていました。

「ヨッ、直樹、やっぱり来てくれたか」
 レンズバズーカを重々しく装着したカメラを抱え、寂々たる空気を破り、浩二が現れました。そして間髪入れずに「さっ、仕留めるぞ」と吠え、土手の斜面へと下りて行きました。私は追い掛けるしかありません。
 浩二は私を尻目に、適当な場所見付けたのでしょう、手際よく三脚を立てカメラをセットしました。

「何を撮るんだよ。こんな夜に呼び出したんだから、説明しろよ」
 私はここまで取り付く島もなかった浩二に文句を付けてやりました。すると浩二は未確認生物ハンターの目をぎらつかせ、秘めた思いを吐いたのです。
「獲物は自転車だよ、いや、ワイルド・バイシクルと呼ばれる野生動物だよ。三分咲きの月夜に、群れがまるで狼のように桜背割り堤を駆け抜けて行くんだぞ。その一瞬を撮りたくってね。これこそが沖縄から戻って来た理由で、いつだって機嫌良く付き合ってくれるお前にお礼がしたい、そう、千載一遇のチャンスのお裾分けだよ」

「おいおい浩二、俺は機嫌良く付き合ってるわけじゃないぞ。それにしても野生の自転車って……、お前一度病院へ行った方が良いんじゃないか」
 友人としてこんなサジェスチョンをしてやった時です。遠くからシャアーという音が聞こえてきました。
 その方向に目を遣ると、桜背割り堤に無人の自転車が10台ほど、いやどこまでも流線型の10頭でしょうか。ヘッドライトに当たる目から黄金ビームを発し、車輪のような輪っぱを高回転させながら、アッ、アッ、アッ、まるで疾風の如く――、駆け抜けて行きました。
 もちろん浩二はこの一瞬を逃すまいとシャカシャカシャカと連射連射のてんこ盛りでした。