超短編小説 108物語集(継続中)
30分後、芹凛がツカツカッと上司の前へと進み出る。
「コーヒーでも入れましょうか」
いつもの言葉だ、百目鬼にはわかってる、考えがまとまったのだと。「コーヒーより先に、3つの疑問を聞かせてくれ」と催促する。
これに芹凛は親指、人差し指、中指3本を立てた。百目鬼は、こいつ外人みたいな仕草をするオナゴだなあと驚くが、芹凛は気にも掛けず親指から1本ずつ折って行く。
1.風月の過去は?
2.凶器は刃物か?
3.一人で4分野の活躍、可能か?
「ヨッシャー、これらの大きな疑問に対し、答えは何か、もっと深掘りしてみよう」と百目鬼は方向付けた。
当然二人は徹夜となり、そして朝一のコーヒーを啜りながら調査結果をレビューする。
1.風月の過去には関係者の不審死が3回あった。いずれも風月は旅行中であり、今回と同じくアリバイは成立した。
2.凶器は刃物ではない。爪でも殺傷できる。
3.天才、レオナルド・ダ・ヴィンチでも楽器の奏者ではない。
一人で4分野を窮めることは人間として不可能。必ずゴーストがいるはず。
「ヨシ、ここから仮説を立ててみよう」と百目鬼が親指を立てた。
しばらく沈思黙考、その後芹凛がコーヒーもう一杯いかがと問い掛けると、百目鬼が話してみろと目で促す。芹凛はこれに応えて、推理を滔々と述べる。
花嵐風月、姉は風(かぜ)、妹は月(つき)の名を持つ双子の姉妹。ただ戸籍は風月の1つだけとなれば、本事件はあり得る。
その経緯(いきさつ)は、貧しい二人でも見かけ上一人になって振る舞えば、アウトプットは凡人の倍以上に見える、親が姉妹を捨てるに当たって、この宿命で生きて行けと出生時に仕組んだのでしょう。
その後金橋に拾われ、風は小説家/画家、月は書道家/ギターリストとして開花する。
今回の事件は、風が現場を離れ、ギターリストの月が爪を研ぎ、頚動脈を引っ掻いた。我々は風月が一人だと思い込んでいたため犯人に辿り着けなかった、というこです。
作品名:超短編小説 108物語集(継続中) 作家名:鮎風 遊