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超短編小説  108物語集(継続中)

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 まさか徘徊?
 いや、身なりはきちっとされてるようだから、そうではなさそうだ。
 だけれどもこの間なんて、近くの公園で紅い山茶花にスマホを近づけて、何回も何回も写真を撮ってらっしゃった。髪を振り乱してのご様子に、達也は思わず声を掛けてしまった。

「奥さん、そんな花、この時期どこにでも咲いてますよ。撮る値打ちなんてあるのですか?」
 こんな藪から棒の質問に、奥さんはゆるりと振り返り、達也を鋭く睨み付けてきた。それからやっと隣人であることに気付き、ホホホと作り笑いをなされ、「あら、達也さん、ご存知ないの、このありきたりの花でもアプリで盛ったらね、それはそれは美しくなるのよ」とちょっと甲高く仰られたのだ。

 それにしても「盛る」って意味不明。達也が「はぁ?」と首を傾げるのを見て、今度はフフフと含み笑いをし、「これ、メイフェアでどうかしら?」と言い放たれた。
 えっ、メイ…、何のこっちゃ! どうも達也の知らない世界で遊んでられるようだ。この会話、あとどう繋いだら良いのだろうか?

 達也は固まったままま、一秒、二秒、三秒、そして十秒が経過した。そしてやっとこさレスする。「奥さん、やっぱ盛るのは、蕎麦でっせ」と。
 今度は奥さんが、ポカン。
 この回復に達也以上の十五秒の刻みが必要だった。奥さんはフーと息を吐き、憐れみの眼差しで最後通牒、それは「ご縁あれば、アイフォン内でお会いしましょ」だった。