超短編小説 108物語集(継続中)
事ほど左様な病、それは明らかに――『書けない病』だ。
まさに唐突な患い。そのせいで執筆ドーパミンの放出は断たれ、この禁断症状によって酷い自己嫌悪に陥るのが一般的だ。
まことに悲運だが、もう手の施しようがない。ただただ治癒して行くのを待つしかないっていう所だろうか。
されどもこの男の場合、角蔵(カクゾウ)と名乗るだけあってか、こんな事態に突入しても、「絶対に書くぞー!」とネタ探しのためネット内を彷徨う。言ってみれば、ドーパミン欲しさだけのやる気。どこぞが壊れてしまっているのかも知れない。
しかし、この変人以上に、この世はもっと珍奇だ。神はこの男のために、秘宝・心願成就の壺なるものを検索ヒットさせてやるのだから。これって神様の意地悪、それとも救いの手? まあ、曖昧なところだが。
いずれにしても画面には、――何でも叶う心願成就の壺、多種有り。一欲貫徹山に登り来たらば、進ぜよう!――とある。
ただ今の角蔵は、書きたい、しかし書けない、いや書かなければならない、というような心持ち。
執筆ドーパミン依存症から生じるこんな強迫観念により、何はともあれ飛びついた。そして早速会社に休暇届を出し、一欲貫徹山へと向かったのだった。
作品名:超短編小説 108物語集(継続中) 作家名:鮎風 遊