超短編小説 108物語集(継続中)
「あ〜あ、まったくダメだ!」
早起きし、朝日に映える紅葉の中を散策しても、昼に新蕎麦をズルズルッとすすり上げても…。
夜に四分六のちょっと濃いめの焼酎お湯割りに、南高梅を二つ落として呷ってみても…。
あとは酔い醒ましにと、四十度の柚子風呂に浸かったとしても、ただただ浮かぶのは黄色い柚子の皮だけ。
「こん畜生、ストーリーなんて、ぜんぜん浮かんでこないや!」
ふーと大きく溜息を吐いた角蔵、多忙で満身創痍のサラリーマンであっても、己の時間を見付けてはここ五年小説を書き続けてきた。今はすっかり物書きに嵌まってしまってる。
なぜ、夢中になってしまったのだろうか?
理由は自分でもよくわからない。だが執筆中にはすべての雑念が飛んで行き、ドーパミンが脳内に溢れることだけは確か。そのお陰で心地よいハイテンションになれる。
しかし、ある日突然に、物語が浮かばなくなったのだ。結果、何も書けず、ドーパミンの禁断症状に苛(さいな)まれる。
それでも苦し紛れに筋書きを組み立ててみる。だがあちらこちらで辻褄が合わない。遂にその修復に、禁じ手、そう、いくつもの奇跡を起こし、各節を無理矢理繋ぎ合わせてしまう。
こんな小説、当然面白くもない。最後に悲鳴、「ああ、書けないんだよ!」と涙が滲む。
作品名:超短編小説 108物語集(継続中) 作家名:鮎風 遊