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超短編小説  108物語集(継続中)

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 不動産屋がにこやかに話す。
 まず、更地にしないと売れません。そのためには屋敷を取り壊し、庭にある大きな石を取り除く必要がありますね。一応試算してみますと、更地にする費用と売却金とがほぼ同額でありまして、言ってみれば価値はゼロに近いでしょうな。それに買い手が付くかどうか、私どもには自信がありません。

 こんな報告を受け、一郎は愕然となる。だがここは踏ん張って、「じゃあ、賃貸にします」と申し出た。
 これに担当者は苦笑いし、賃貸のためには家の中を空っぽにしてください。だけど最寄り駅まで徒歩1時間、バス便なし。これではちょっとね、借り手が付くかどうか、と申し訳なさそうな顔をして項垂れた。そして一郎もガクッと肩を落とすしかなかったのだ。
 不幸にも相談はこんな結末だった。

 しかしそうであったとしても、一郎があえて話さなかった難問中の難問がある。すなわち仏壇問題を抱えていたのだ。
 神々しく光る巾一間の仏壇、一郎の祖父が戦前カナダに出稼ぎし、持ち帰った金で購入した逸品だ。これはじっちゃんの魂が入った形見でもあり、その前で拝めば、一郎の願うことをよく聞いてくれた。そのため手放せない。

 本来なら一郎の今の住居に移すべきだろう。
 しかし狭くて、大きな仏壇が収まるスペースなどない。
 という諸事情で、実家の売却/賃貸は甚だしく困難、そのため永遠に草刈りが続くという、まことに憂鬱な事態に陥ってしまっているのだ。