超短編小説 108物語集(継続中)
とは言っても、こんなことは大した話しではない。この男にはもっと憂鬱なタスクがある。
そう、それは実家の処分。
「この家を、一体どうしたらよいのか?」
何回もこの自問を繰り返してきた。
だが答えは未だ見付かっていない。そして結局は先送りする。
今回も同じ、「結論はまたにするか」と棚上げし、草刈りの続きへと重い腰を上げるのだった。
一郎の父は15年前に他界し、母は3年前に逝った。そして残されたものは田舎の屋敷と土地。
当然そこには膨大な遺品、すなわち思い出の品や価値ある物品、と言いたいところだが、値打ち物は少々で、あとは不要物の山なのだ。
母が没してからすでにトラック7台分を処分しただろうか。費用もかなり嵩んだ。しかし、まだまだ整理が付いていないのが現実だ。
「なぜ、こんなに残したの?」
父と母に聞いてみたいが、それはきっと、大正、昭和、平成と三時代を生き抜いた両親の、もったいないという心掛けの結果なのだろう。
一郎は昭和生まれであり、その美徳を充分理解できる。だから両親をなじる気持など微塵もない。
しかし将来を見据えれば、一郎も、都会で働く子供たちも田舎の家には戻らないだろう。
されどもそこに家が現存する以上、固定資産税や諸々の費用が掛かり、またメンテも必要だ。ならば売ってしまおう、考えがこう至っても不思議ではない。
そこで査定にと不動産屋に来てもらった。しかし、結果はまことに非情なものだった。
作品名:超短編小説 108物語集(継続中) 作家名:鮎風 遊