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超短編小説  108物語集(継続中)

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 キュン。一郎はさらに2メートル進み、草刈り機を停止させた。
 そして父が育て、母が愛でた薄紅のしだれ梅の枝を折ってみる。

 ポキッ!
 実に空虚な響きがする。きっと春先に撒いた除草剤で枯らせてしまったのだろう。
「あ〜あ、俺はこの梅も死なせてしまったのか」と自責の念で心が痛む。されど一郎は思うのだった。

 もう俺も歳だし、そろそろご先祖様のこの家への思いも、ポキッと折ってみるとするか。
 そうだな、俺は鬼となり、父母の生きた証が残る家を始末してしまおう。その役目を果たし、子供たちに呪縛なき未来へのバトンを渡そう。
 そのためには、そっ、これから起こる家の出来事は、もう何も後悔しないぞ!

 こう決意を新たにした一郎には、長年巣くっている憂鬱がほんの少しだけだが、どこかへ消えて行ったような気がするのだった。