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超短編小説  108物語集(継続中)

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 私は旅行前の下調べで、樹木の精霊のキジムナーについて、いいヤツだが怒らせたら恐い。赤髪で枝のような手を持つ妖怪でもあり、最近あちこちで出没しているとか。また海に潜って魚を獲るのが上手で、魚をよく食べる。特に左の目玉が大好きのようだと情報を得てました。

 そう言えば、来た道に左の面玉がくり抜かれた魚が落ちてました。あれはヤツが食べあとかな? と想像を巡らせながら、仕方なくヨロヨロと。
 そして我慢して30分は歩いたでしょうか、浩二が「村に着いたぞ」と指差しました。
 その方角に目を遣ると、森にポッカリと穴が開いたような広場に、ヤンバルクイナが鶏のように遊んでます。さらに背後には十戸ばかりの草葺き小屋が並んでいました。

 浩二はまるで住人かのように、「ケーティチャビタン」(ただいま)と発しました。すると「ケータンナー」(おかえり)と背丈が子供ほどの10匹、いや、10人ばかりの赤毛の連中が小屋から現れたのです。

「メンソーレー、ワッター ヤ キムジナー ヤイビーン」
 これは彼らの自己紹介かな? そこで私は「ワンネー、直樹ヤイビーン、ユタシク」と憶え立ての挨拶で。
 だけどその隙に、浩二は私のバッグから鯛焼きを取り出し、「ウサガミソーレー」(召し上がれ)と手渡しました。
 ここで私は初めて気付きました、鯛焼きは魚好きのキムジナーへの土産だったのだと。

 それにしてもちょっと変、鯛焼きって魚類?
 こんな奇妙奇天烈をよそに、ヤツらは鯛焼きの左目から食べ、あとは頬張って「イッペーマサン」(美味い)と目を丸くして喜んでくれました。
 こうして私は受け入れられ、浩二と共ににしばらくの宿泊が許されたのです。