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超短編小説  108物語集(継続中)

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 初夏の夜風は芳潤だ。その湿りが街の灯りを煌めかせる。駿は遅い食事を終え、その光の粒を浴びながら、余程需要があるのだろう、ビル一式がカプセルの、町の巣へと入って行った。
 そこではまず自動販売機で入室券を購入する。それから受付でカプセルキーを受け取る。あとは1階のロッカーで服を脱ぎ、バスローブ姿となる。そして貴重品だけを持って、指定のフロアーへと上がる、そんな順番だ。

 もちろん今夜もその手順に従って、駿はエレベーターの前に立った。その時だった、黄と黒の縞模様の、ちょっと異様な男が脇を通って、先に乗り込んだ。駿があからさまにムッとすると、不作法を反省したのだろう、深く頭を下げた。そして「8階ですよね」と念を押してくる。

 お前がなんで知ってんだよ、そう聞き返してやろうと思った時だった、男がボタンを5、2、8と捺し込んだ。
 8の前に、5、2なんて要らないんだよ、と駿が注意しようとした瞬間、エレベーターは上昇し始めた。そして途中グラグラと一度揺れたが、トラブルもなく8階へと到着した。