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超短編小説  108物語集(継続中)

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 そんな至福の一夜が明け、翌日は、人生最後の愛車として、清水の舞台から飛び降りる思いで購入したGT車。それで観光地へとドライブ。助手席にはもちろん、プリンプリンのお姉さんじゃありませんが、あれこれそれの指示代名詞だけで会話が成り立つ女房。

 まず、妻の趣味がボタニカルアートで、その画材探しにと温泉の熱を利用した植物園を訪ねました。
 園内に入ると、まるでそこは赤道直下、じとっとした生暖かい空気がいきなり襲ってきました。それでも黄やピンクの蘭の花が咲き乱れ、絢爛華麗に私たちを迎えてくれました。さらに奥へと進みますと、そこは完璧なジャングルでした。

「ねえ、これ、なんて言う木か知ってる?」
 突然立ち止まった志乃が指差しました。仕事絡みのことは任せてください。されども熱帯の樹木なんて、知るわけないですよね。私がポカンと口を開けてますと、耳元でトーンを落とし、妻が囁いたのです。「絞め殺しの木よ」って。

 私は、そんな恐ろしい木があるのかとよく見ますと、確かに何本ものつるが幹や枝に巻き付いています。助けてくれ、と木の精霊の叫び声が聞こえてきそうでした。
 それが恐くて、私がうーうーと身悶えてると、志乃はその場にしゃがみ込み、「これはロブスターの爪がぶら下がったヘリコニアロストラタって言うのよ。だけど血糊が付いたノコギリのようでしょ」と尖った葉、いや刃を嬉々として撫でてるではありませんか。

 だけれども私にはそれがノコギリには見えず、むしろ人体を切り刻み、鮮血をしたたり落とすチェンソー。その恐怖のせいか、館内は蒸し暑いにもかかわらず、背筋に冷たいものが走りました。そんな私に志乃は「絞め殺しか、切り刻み、――、あなたはどっちがお好み?」と冷淡無常な目で窺ってきました。

「どっちも遠慮するよ!」
 反射的に叫んでしまった私に、「絵にもならない濡れ落ち葉は大嫌いよ。もしそうなった時に描こうと思ってるの。亭主の死というテーマでね」と志乃は不気味に笑みを浮かべました。
 この瞬間です、私はビッビッと感じ取ったのです、妻の殺意を。

 なぜって? だって会社から家へと戻ってきた嵩高いダンナの世話、それがもし志乃の嫌いなことであるならば、私はまさに邪魔者。その果てに、絞め殺されるか、もしくは切り刻まれる、ってことに!