超短編小説 108物語集(継続中)
あっと、自己紹介が遅れました、私は今年目出度く定年退職をした夏風耕介と申します。
長い会社勤め、決して順風満帆ではなく、むしろ満身創痍で現役を退いたと言った方が当たってるかも知れません。それでも業務計画も納期もない、まさに自由を満喫できる第二の人生が始まったわけです。
私はこの幸運を祝し、もちろんいの一番に、苦労をかけた志乃をねぎらうため、二人で温泉へと出掛けました。
山峡の宿、美しく盛り付けられた山海の幸、それらを舌にのせ、妻と地酒で差しつ差されつ。思わずフラッシュバックし、そこには新婚時代の志乃がいました。あとはほろ酔い気分で、露天風呂へと。
首まで浸かり、夜空を見上げますと、頭上に宝石をちりばめたような星空が。さらに中天には淡香(うすこう)のまん丸お月さんが、立ちのぼる湯気に揺れていました。
ウォオ−! はからずも私は月に吠えてしまいました。
作品名:超短編小説 108物語集(継続中) 作家名:鮎風 遊