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超短編小説  108物語集(継続中)

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 あれは高校二年生の夏休みのことだった。
 当時大輔には誠という親友がいた。誠の父は鉄工所を営み、経済的に恵まれいた。一方大輔は母子家庭で貧しかった。そのせいか誠の元気良さが目映く、それでも負けないぞと共に行動していた。
 その誠のガールフレンドがミツ子だった。白いブラウスに紺のスカート、うなじが透き通るように白く、後れ毛がくるりと巻いていた。清純、しかし意志を貫く女学生だった。だが、大輔が恋したミツ子はすでに誠の彼女、そのためいつもミツ子を目で追うだけだった。

 そして夏休みも後半に突入したある日、誠も大輔も自由研究が出来上がっていない。そこで二人は美術部のミツ子を頼り、デッサンをしようとなった。しかし、絵を描くなんて、と大輔は自信がなく、誠の後から美術室へと入って行った。するとミツ子がブルータスの石膏像に向き合っていた。

 ようこそとミツ子は大人っぽく微笑み、陸上部の大輔君がデッサンに挑むなんて、もう走れなくなったの? と悪戯っぽく訊いてきた。これにドギマギし、目を逸らした視線の先に、ミツ子が描いたブルータスの力強い姿があった。大輔は思わず、これで飯食って行けるぜ、と下品に吐いてしまった。ミツ子はただコクリと頷き、これを使ってと画用紙と鉛筆を手渡してくれた。

 それから1時間が経過、男子二人は描き終えた。誠のデッサンはそこそこの出来映えだ。しかし大輔の作品は「まるでロボットね、大輔君、妄想で描いたらダメよ」とミツ子がぷぷぷと吹き出す。大輔はへへへと頭を掻くしかなかった。
 そんな時に、誠が自分の作品の上に鉛筆を走らせた。

 ―― ミツ子が大好きです。だから、大人になったら ――と。