超短編小説 108物語集(継続中)
夜中の2時、亜希と東京駅で待ち合わせをした耕介、特別な入り口から入り、5番線ホームへと連れて行かれた。
「えっ、新幹線じゃないの?」
耕介が思わず呟くと、亜希は自信たっぷりに、「未来巡りは山手線外回り、過去巡りは内回りで可能よ」と言う。
そうなんだ、と妙に納得する耕介の目の前に、黄緑色の車両がスーと入って来た。周りを見渡すと二人だけ、他に誰もいない。そこで時刻表を確認すると、終電は1時03分とある。ということは、これは誰も知らないミステリー電車か?
「さっ、旅立ちよ!」
亜希の掛け声に煽られて、乗り込んでしまった耕介、あとは覚悟を決めるしかなかった。
電車はスムーズに発車し、夜はすぐに明けた。そして新橋、品川へと。車窓から見る建造物がどんどん近代化されて行き、やがて渋谷に。
「ひぇー、これ、どうなってんだ!」
超々高層ビルが天を貫き、その合間を小型飛行物体が上下左右に飛び交ってる。亜希の弁によれば、ここは1千年先の渋谷だとか。
されど、これに感激していても腹は空くもの。宇宙エレベーターで30キロメーター上空へと昇り、大東京を眼下にして、自称プリティウーマンとゆるりと食事を取った。それから戻り、一路1万年先の新宿へと。
ぶったまげた!
そこは荒涼とした平原。どうも核戦争が勃発し、地球が壊滅した跡だとか。これが堪(たま)らず、そそくさと1億年先の池袋へ。そこはまさにジャングルだった。
冒険しようと、二人が這いつくばって散策すると、牙を剥いた大型肉食恐竜・ティラノサウルスがドドドと向かって来るではないか。これって、ひょっとして……、我々が獲物? 耕介は思わず亜希の手を取り、脱兎のごとく駅へと戻り、次の日暮里へと。
その途中だった、ドカーンと大音響が轟き渡る。地球に大きな隕石が衝突したのだわ、とさらりと語る亜希に、耕介はへえとしか返せない。その内、視界に氷河の大地が。外へ出れば凍死してしまいそう。
ということで、急ぎ100億年未来の上野へと。
よく見ると、草原を毛むくじゃらのオヤジが二足歩行しているではないか。新人類誕生と囁いた亜希に、なるほどと耕介は納得。
さらに電車は1千億年先の秋葉原へ。この辺りから風景が目まぐるしく変化する。江戸から東京へと、そして爆弾で町は炎上し、神田を過ぎて、634メートルのタワーが突然現れた。
作品名:超短編小説 108物語集(継続中) 作家名:鮎風 遊