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超短編小説  108物語集(継続中)

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 そこで御参考に、たとえばここに花形遥希(はながたはるき)という男がいる。
 完璧に名前負けしてる状態、つまり貧乏/もてない/暗いの三拍子を背負ったサラリーマンだ。

 そんな遥希だが、わずかなボーナスを手にした時だけは弾けてしまう。とは言っても、大した話しではない。居酒屋の片隅で、誰も集わぬ一人宴会をしみじみと。
「今夜は七夕、ひこ星と織姫星の年1回のデートか。俺は彼女いない歴10年、悔しいけど祝ってやろう」
 嫌われ男だが、優しい気持ちだけは持ち合わせてる遥希、今夜は半額唐揚げでついつい飲み過ぎた。12時も過ぎ、さっ安アパートに帰ろうかと外へと出た。
 ムッと蒸し、どことなく普段の夜とは違うようだ。それでも遥希は気分良く、ヨロヨロとバス停へと向かう。

「しまった、最終は出てしまったか」
 1時間かけて、歩いて帰るしかない。そんな時にオンボロバスが入って来た。
〈あなたの別世界行き〉、遥希はこんな行き先表示につられ、酔っ払った勢いでひょいと乗ってしまったのだ。

 暗い室内を見渡すと、死に神にお岩さん、一つ目小僧に鬼婆が座ってる。遥希は恐怖を感じない。なぜなら、このバスは夏の夜の仮装イベントだと思ったからだ。そして遥希は白装束の運転手を誘導し、アパート前まで行ってもらった。

「ここが俺の別世界だよ」
 こう自虐的に告げると、運転手が「えっ、冥土へ行かないのか、だったら代わりに、この女を持ち帰ってくれないか」と頭を下げる。すると横にいた女が「私、あなたとこの世で暮らしてみたいの」と遥希に迫ってくる。

 遥希はこの意図がもう一つわからない。だがそれはちょっと棚上げして、肌は白く、いや青白いくらいに透き通り、なかなかの美人だと感動。もちろん、これも行き掛かり上ってことで断る理由はない。「ああ、いいよ」と軽く返し、女の手を引いて降りた。
 その後バスはエンジンを噴かし、左右に揺れながら消えて行く。また縁あらばと遥希がナンバープレートを確認すると、〈幽ー0〉とある。