超短編小説 108物語集(継続中)
「えっ、あのバスって、幽霊バスだったのか」
やっと気付いた遥希、ならば、この女は?
遥希が女を窺うと、ギョッ!
なんとおどろおどろしいことに、尖った顎を上げ、その下にある大口で唄ってるではないか。
♪ 今夜も 幽霊バスが
どこかの町を 走ってる
行く先は 黄(よ)泉(み)の国
それとも あなたの別世界
たまたま乗った人間に
私は恋され 連れられて
あなたの別世界 安アパートに
夜な夜な歌って上げるわ
幽霊妻のラブソング ♪
「おいおいおい、顎(あご)女(おんな)さん、そう歌ってくれるのは光栄だけど、私は恋され、連れられてって、勝手に付いてきたんだぜ。それに、妻って? ちょっと進展が早過ぎない?」
花形遥希でも一応反発を試みた。
「じゃあ、もう一度、私とバスに乗って、黄泉の国に行きますか?」
こんな経緯で、冥界の歌姫がアパートに無理矢理転がり込んできた。
貧乏/もてない/暗いの三拍子を背負った花形遥希、一度もてたらこんな羽目に。それでも、貧乏は相も変わらずだが、夜な夜なの幽霊妻のラブソングで心の暗さは消えたとか。
作品名:超短編小説 108物語集(継続中) 作家名:鮎風 遊