超短編小説 108物語集(継続中)
やがてエレベーターは停止し、扉が開いた。降り立ってみると、そこには標高03510メートルの表示があった。
それにしても03510とは? これはお見事という駄洒落かよとズッコケながら、陸は廊下の先へと進む。
すると風景が変わり、面前に冠雪の山々が連なる眺望が。また大地には真っ青なケシの花が咲き乱れてる。陸はきっとヒマラヤの麓にワープしたのだと推測した。そんなファンタジックな世界の中をしばらく歩き進むと、白い石を積み上げた家がある。そして門前で、可移羅志がこちらよと手招きをしてくれているではないか。
これを目にした陸、決心した。出勤はここからエレベーターに乗って通えばよい。だから可移羅志とここで暮らそうと。
可移羅志はこの男の熱い決断を受け入れてくれた。しかし入籍はできなかった。その理由は、可移羅志の弁によると、青いケシの花と同様、私は天上の妖精。それ故に無国籍なのと。
それでも陸は幸せだった。ただ一つのことを除けばだが……。
と言うのも、一緒に暮らし始めてから、可移羅志は機密情報を教えて欲しいと要求してきた。陸は女のねだりに負け、寝物語として漏らした。翌朝起きてみれば、可移羅志はどこかと交信してるようだ。
これでも陸は国防の国家公務員、己の行為を恥じ、事態を判明させるべきと考えた。そこで可移羅志が朝食の用意をしてる間に、彼女のパソコンの電子情報ファイルへと侵入した。陸はそこで知ったのだ。
「地球破壊計画というファイルがあったのだが、これって、どういうこと?」
陸は恐る恐る可移羅志に尋ねた。「そうよ、第三次世界大戦を勃発させ、地球を壊してから、私たち青ケシ星人が乗っ取るの、そんな策略よ」と可移羅志は悪びれる風もない。
さらに「青ケシ星人の地球破壊計画に協力し、私への愛を貫くか、それとも私を捨て、人類を守るのか、陸はどちらを選択するの?」と詰め寄ってくる。これは予想だにしなかった展開だ。陸は思わず後退りをし、近くにあったナイフを握り締めた。
「俺を愛してくれたスパイ、それは宇宙人だったのか」
こう絞り出した陸の言葉に、いつも柔らかな面持ちの可移羅志がキリリと身を正し、軍人のように「イエッサー」と答えた。
作品名:超短編小説 108物語集(継続中) 作家名:鮎風 遊