超短編小説 108物語集(継続中)
陸は迷った。可移羅志との愛をもっと育みたい、そのためナイフを投げ捨てようかと。それとも地球滅亡を目論む宇宙人、この女ソルジャーを刺し殺してしまおうかと。
一方可移羅志は、ハニートラップのつもりが、なぜか愛してしまった地球のオスの苦悩がどことなくわかる。そのせいか惻隠(そくいん)の情をもって微笑み返す。
その瞬間だった、陸はナイフを高く振り上げる。そして――、エイ! 雄叫びとともに、己の胸にナイフを突き立てたのだ。
深紅の血が噴き上がる。
可移羅志はすぐさま陸を抱きかかえ、天上の妖精の青い瞳を潤ませる。
「陸、あなたは自決を選択したのね、まさにまほろばの星の男の子だわ。私絶対にあなたを死なせないから。さっ、地球任務を終え、私と一緒に出掛けましょ、星から星への、愛の旅へと」
それからすぐの事だった。ヒマラヤの上空に天車が、つまりUFOが着陸態勢に入ったのだった。
作品名:超短編小説 108物語集(継続中) 作家名:鮎風 遊