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超短編小説  108物語集(継続中)

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「あ〜あ、最近の飛行は秒速2m以下。これでは獲物が獲れないよ。プロポーズしたルリにはそっぽ向かれるし、このまま独身で終わるのかなあ」
 初秋となり、自慢の斑紋も色褪せてきた通称ボシヤン、沼に張り出した枝の上で落ち込み気味。そこへメストンボのルリがひゅーと飛んできた。

「ねえ、ボシヤン、私、お腹空いたわ。また求愛のチャンスを上げるから、狩りに連れてって」
 こんなおねだりをしてきたルリ、寄る年波には勝てず、ちょっとお肌が黄色っぽい。その上に瑠璃色斑点が微妙に黒光り。えっ、まるで豹柄じゃん、と一瞬思ったボシヤン、だが惚れた弱みか、「結婚してくれるなら、何でもOK」とひょいと飛び立った。そして一番カッコイイと自画自賛する零戦スタイルで飛翔。待ってと追い掛けてくるルリを、今度はオスプレーなみのホバリングで空中待機。

 合流後は2機の編隊飛行。まず水面ギリギリに、前後のトレイル。そこから斜め形のエシュロンに持って行き、まとめは横に並ぶアブレストへ。その間に、ボシヤンは上下左右にトリプルアクセル風な3回転飛行を披露する。
 こんな高難度技に、ルリはちょっとは俺のこと好きになってくれたかなと油断した時だった、木陰から素早く網が伸びてきた。

「ルリ、ヤバイぞ!」
「ボシヤン、助けて、キャー!」
 こう叫ぶ二匹のトンボ、これでお陀仏か。その瞬間だった、一陣の風が水面をザァーと渡り来る。この神風はすぐさま上昇気流となり、今にも網の中へと飛び込みそうだったボシヤンとルリを空中高くへと舞い上げた。危機一髪の命拾いだ。