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超短編小説  108物語集(継続中)

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 それにしても大空からの眺望、今まで見たことがない景色。木々が生い茂る中に、沼がキラキラと輝く。そこから深緑の森の先へと目を移すと、青い山脈が連なる。トンボ二匹はこの美しさに感激する。

 だが、それも束の間、ルリが表情を曇らせ、「高度1000メートルくらいかしら、もう沼に降りられないわ」と。ボシヤンが振り返ると、ルリの魅惑的な複眼から涙が。「えっ、トンボでも泣くことあるんだ」とトンボのくせして、ボシヤンは余計素っ頓狂な顔で驚く。この反応にムカッときたのか、「トンボが糸の切れた凧になってしまったのよ。どうするつもりなのよ!」とルリが反撃。

 言われてみれば、確かに非常事態だ。
 さてさて、沼へと生還する方法は?
 仲間内で極楽トンボと呼ばれるボシヤンでも、ここは真剣に考える。
 そして出した答えは──身体をひょいと浮かせ、ルリの上に乗っかって、抱き締める。

「アンタ、何すんのよ!」
 こう叫ぶルリに、「俺たちが助かるためには、結婚するしかないんだよ」とボシヤンは甘く囁き、ギュッと力を込める。
 身を絡め合い一体となった二匹のトンボ、自由が利かず失速し、あれよあれよと沼へと墜落して行く。

 ルリとって、こんなスリリングなことは初体験。ボシヤンの脈打つ鼓動に熱い想いを感じ、「いつまでも愛して欲しいの」と胸の内を明かしてしまう。もちろんボシヤンは「永遠に愛を誓うよ」と強く抱擁する。


 ガシャ。
 二匹のルリボシヤンマは、生涯に一度だけ神から授かる奇跡、神風のお陰で、

 愛し合いながら──水辺の草むらに無事帰還となったのだった。