超短編小説 108物語集(継続中)
良樹はぶったまげた。身体が固まり、動くことができない。
頭は駱駝(らくだ)、目は兎。胴は蛇で、背中には鯉の鱗が。そして手の平は虎で、爪は鷹。喉の下に逆さに生えた一枚の鱗、逆鱗が目視できる。
そんな爬虫類に似た生物、そう、龍が頭上でぐるぐると舞っている。良樹はもう生きた心地がしない。こんな良樹の慌てた様を見ていたカッパたちがケケケと笑ってる。そんな時にドラゴンが声を発したのだ。
「なあ、良樹、よくぞこの山奥まで訪ねて来てくれた、礼を言うぞ」
良樹は耳を疑った。しかしこれでホッとしたのか、それとも動転の極みなのか気楽なことを口走ってしまう。
「いやいや、礼なんて。ただ龍ちゃんに会いたくって、村の人たちが残した龍ちゃんプールに……、来てしまったよ。それにしても元気そうで、ほんによろしおしたで」
「ハハハ、良樹はいつも調子が良いのう。まあ、当たっておるわ。龍神の滝壺(たきつぼ)が土砂崩れで埋まってしまって、村人たちが気を利かせて、村を去る前にこの龍神のプールを作ってくれたのじゃ」
こんなドラゴンからの話しに良樹はふんふんと頷くだけだった。
しかし、ドラゴンは人間と喋るのは久し振りだったのだろう、嬉しそうに続ける。
「なあ良樹、見たところおまはんは、まだまだ欲でギラギラしちょるぜ。苦しいんとちゃうか? それで一期一会の縁でごわす、ここに人間の欲を封じ込める如意宝珠(にょいほうじゅ)、つまり龍玉があるんじゃ。よってもって、おまえの醜い煩悩一つを封じ込めてやるちゃ」
ドラゴンは日本全国の方言ごちゃまぜで良樹に進言し、いわゆるドラゴンボールを差し出した。良樹は思わず「ご出身は?」と訊きそうになったが、ここは確かに、これもやりたい、あれも欲しいの、ガツガツした生活に疲れてるところもあり素直に答えた。
「はい、それではお言葉に甘えて、私の場合は……、名誉欲を捨てます」
作品名:超短編小説 108物語集(継続中) 作家名:鮎風 遊