超短編小説 108物語集(継続中)
「はあ? 名誉欲? 良樹おまえなあ、おまえにとって、一番手に入れる可能性の低いのが名誉だよ。そんな名誉欲より食欲とか金銭欲をあっさり捨てたらどうだ?」
ドラゴンは他人事のように説得する。しかし良樹は譲れない。
「いやいやまだ現役ですから、食欲も金銭欲も捨てられません。名誉欲あたりでご勘弁を」
良樹が頼み込むと、ドラゴンは「まあ、仕方がないか」と呟いて、良樹の頭上で息を吸い込み、そして手にしてる龍玉に吹き付けた。
「さあ、これで良樹は一つ煩悩が落ちたから、これからの生涯、少し気楽になるぞ。おまえの欲が強くなり、暮らすのがしんどくなったら、またここの龍ちゃんプールに来い。邪魔な欲を抜いてやるから」
良樹は龍からのこんな言葉を最後に受けて、町へと戻って行った。
そんな不可思議な出来事があってから随分と歳月が流れた。そして、あの山奥の廃村にある龍ちゃんプール、それは今も現存しているらしい。
ただ様子が少し変わったとか。
夏ともなると、元気の良い老人が現れて、ドラゴンやカッパたちと楽しそうに泳いでいるらしい。
そして、そのお爺さんは……無欲なヨシキちゃん仙人と呼ばれているそうな。
作品名:超短編小説 108物語集(継続中) 作家名:鮎風 遊