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超短編小説  108物語集(継続中)

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「えっ、なんでこんな所に、椅子が? 誰もいないはずなのに」
 そんなことに気付き、辺りを見渡してみる。すると川向こうに親子の鹿や猿がいる。しかも不思議にニコッと笑ってるようだ。
 さらに目を懲らしてみると、向こう岸の草むらからこちらをじっと窺(うかが)ってるヤツがいる。その連中の姿は身体は緑色、そして頭に皿を乗せて甲羅を背負ってる。嘴(くちばし)をツンと尖らせる滑稽なヤツらだ。

「それでなのか、椅子の周りにキューリが落ちてるのは」
 良樹は今いる状況が読めてきた。「奇妙な所に来たもんだ。カッパがいるなんて……」と呟くしかない。

 しかしここでまたハッと気付く。
「ということは、このプールはあんな馬鹿顔をしたカッパのためにあるってこと? そんなアホな!」
 連中のためにしてはとにかく立派過ぎる。良樹はめっちゃ不満なのだ。そんな時に、一瞬のことだった。

 ピカピカピカ……ドカーン!
 これぞ本当の青天の霹靂。夏の青空に閃光が走り、近くに落雷した。良樹は慌ててプールの横で身を屈めた。それから瞬く間に山の清流に暗雲が立ち込め、プールの水面は大きく波打ち、高く盛り上がった。

 良樹がそれに目を取られて眺めていると、長さ三十メートルはあるだろうか、黒い生き物が天に向かって跳ねたのだ。いや、飛び出したと言った方が当たっているかも知れない。

 なぜならその後空中を軽々と飛翔し始めたからだ。