小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

超短編小説  108物語集(継続中)

INDEX|332ページ/761ページ|

次のページ前のページ
 


「あなた、いる?」
 玄関から女性の声が。

 しかし、朝一番の取引中だ。翔平はパソコンの前から離れられない。それにしても滅多に人は訪ねてこないのに、あなたとは、一体誰だろうか?
 気にはなったが、「上がって、待っててください」と画面に目を釘付けさせたまま返した。
 それに応えて、「いいわよ」と女が言ったような、言わなかったような、それでもスリッパを穿いて、リビングへと向かったようだ。

 それから30分は経過しただろうか、翔平は一段落し、女が待つリビングへと入って行った。
 しかしだ──女がいない。
 どこへ行ったのだろう?

 奥を覗いてみると、なんと女は、台所に立って手際よく煮炊きをしているではないか。翔平にとってそれはあまりにも意外で、我が目を疑った。それでも精一杯問い掛ける。
「えっとえっと、どちらさんでしたっけ?」
 背後の翔平に気付いた女、振り返りざまにニコリと笑い、さらりと言い放つ。
「あらっ、私よ、妻の百花よ」

 妻、妻、妻?
 唐突に発せられたこの言葉に、翔平はびっくらこいた。

 だいたい翔平は、彼女いない歴、堂々の十五年、色恋に縁のない独身男だ。妻なんて……、信じられな〜い。
 動転でオロオロする翔平に、女は声を1オクターブ上げて、実に嬉しそうに、さらに一言。
「再会できて、良かったわ」
 翔平は訳がわからない。
「百花さんでしたよね。ところで、その再会って?」
 翔平にとって、こんな質問がやっとこさ。

「あなたは勝手に籍まで抜いて、私を置き去りにして、雲隠れしてしまうんだから。探し当てれば、こんな隠遁生活に入っちゃっててさあ。一旦は離れ離れになった私たち夫婦、やっぱり固い絆で結ばれてたってことね、だから再会できたのよ。さっ、もう良いでしょ、あなたの好きな芋の煮っ転がしを今作ってるから」

 この女、いや百花が畳み掛けるものだから、取り付く島もない。それでも目一杯、「芋の煮っ転がしって、俺、好きじゃないんだけどなあ」と反発したものの、「ウッソー! 絶対に、あなたの好物よ」と一蹴されてしまう。
 こんな百花の強引さに翔平は全身全霊打ち砕かれ、これは成り行きというものなのか、まっえっかと一緒に暮らし始めたのだった。