超短編小説 108物語集(継続中)
振り返れば、あれは確か社会へ羽ばたこうとしていた年だった。そして思い出す、あの時いただいたお告げは──忘我。
女はそれに従って、我を忘れ猛烈に働いた。そのお陰か多少の蓄えもでき、また郊外に小さな家まで持てた。
しかし、ここへ来て、なにか物足りない。女の一生、こんな生き方で良いのだろうか? と。
こんな空虚感、それは多分連れ合いがいてくれば、ということなのだろう。
特に神を信じてるわけではないが、今年こそ良縁に。お告げに何かその切っ掛けを期待したい。
「だけど百円玉1個での神頼みじゃ、ちょっと厚かましいかも。でも、千円も支払うお告げ、そちらで頑張っちゃおーっと」
勝手なものだ。だが前例の成功体験からなのか、ここはポジティブに。こうして女は人混みをすり抜け、お告げがもらえる社務所へと進む。
作品名:超短編小説 108物語集(継続中) 作家名:鮎風 遊