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超短編小説  108物語集(継続中)

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 それにしても、今夜のこの会席、理由がわからない。しかし、社長は機を見て、あまりにもさらりと言い渡す。
「君に、たっての願いなのだが……、潜ってくれないか?」
 潜る? 夏樹には意味不明。即座に「どこへですか?」と聞き返すと、社長は一献の酒をふるまい、「地下都市へだよ」と。あとは四の五の言わさぬ眼差しになる。

 それにしても地下都市と突然言われても……、ハトが豆鉄砲を食らったような顔の夏樹に、社長がさらに、
「国家機密で私もよく知らないが、地下に、頑強な壁で守られた、そう、葡萄のように一粒一粒繋がった町の集合体がある。そこにはスーパーコンピューター京の1万倍の計算能力を持つ垓(がい)があり、世界に13しかないDNSサーバの次世代型などがあるようだ。要は日本の心臓部だな」

 夏樹はその都市伝説を耳にしたことがあり、軽く頷いた。しかし、それを無視して社長が続ける。
「国家チームから一人者の君に白羽の矢が立った。端的に言えば、そこへ潜って欲しい。日本のため、国の基軸コンピューターを守る、その任務を引き受けてもらいたい」
 社長はここまで一気に喋り、頭を下げた。

 夏樹にとって、社長から直々の要請、満更でもない。しかし、現プロジェクトが佳境にあり、どうしたものかと心が揺れる。それを見通してか、社長がポイントを変えてくる。
「先に話しておこう。一旦地下都市に潜ると、いいか、機密保持のため二度と地上には戻れない。だが、今は環境も整い、緑が溢れ、スーパーも学校も病院もあるそうな。それに若くて美しい独身女性たちが多く住んでるらしい。もちろん、そこで恋が芽生えれば、君も所帯が持てるぞ」

 所帯、一人で生きてきた夏樹にとって、それはドリーム。その蜜がほろ酔いに結合し、「お受けします」と、ポロリと返事をしてしまった。
「ありがとう、君の勇断に感謝する。それでは善は急げだ、今から行ってくれ」

「えっ、今からって?」
 あまりにも突然で、夏樹は目をパチクリとさせた瞬間だった、襖がさっと開き、現れ出た男に有無を言わさず目隠しされた。あとは料亭から某所へと移動し、高速下降エレベーターに乗せられた。それから数回の引き渡しがあり、やっと目隠しが外された。
「ようこそ、藍染夏樹さん、もう地上に昇ることは二度とありません。日本のために業務に励み、またこの町で地下ライフをエンジョイしてください」

 こうして地下都市での夏樹の暮らしがスタートしたのだった。