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超短編小説  108物語集(継続中)

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 ハンドルを握る黒崎、あの頃、まだアイサの交替は正直考えていなかった、少なくともあと1年は、と。
 だが、ある日、黒崎は見てしまった、神が降りたかのように踊り、そして歌うアイサを。
 きっと彼女は神仏の申し子だ。そう見えてしまった黒崎は、その気高き拈華微笑(ねんげみしょう)に思わず身震いを覚え、ビビッときた。
 アイサは今、輝きの頂点にいる、だから……、これからは色褪せるだけだ、と。

 首切り半蔵の執行は早かった。一週間後、アイサに「退団を要請します。これからは自分で歩んで行ってください」と告げた。
 こんな冷徹な申し渡し、今まで大概のアイドルたちは泣き崩れた。しかし、アイサは涙も見せず、唇を噛んだだけ。その上に、黒崎を真正面に見据え、「やっと私に、最高の輝きが降りたのですね。アイドル冥利に尽きます。だから、退きます」と笑みを零した。
 トップスターの誇りを汚さぬアイサ、黒崎はあらためてその潔(いさぎよ)さに感じ入った。

 されどもアイサの将来が気に掛かる。なぜなら、失意から生活を乱し、身を滅ぼして行ったアイドルたちを何人も見てきたからだ。
「どうするの、退団後は?」
 黒崎は手短に訊いた。しかしアイサに動揺はない。

「首切り半蔵さんは罪滅ぼしのため、退団十年後のアイドルに面会されてるのでしょ。その時に、お見せしますわ、その後の私の姿を」
 こう強がったアイサの瞳に、キラリと光るものがあった。