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超短編小説  108物語集(継続中)

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「こんにちは。ヤンレの黒崎です」
 玄関戸を開くと、庭から三人の幼児たちとアイサが現れた。
「黒崎さんですか? 十年後の面接、わざわざ来てくださって、嬉しいわ」
 三十路にもなったアイサ、少し所帯じみてはいたが、トップアイドルの残像が重なり合う中で明るく笑った。それから黒崎はリビングへと案内され、アイサはその後を一気に語った。

 人生波乱、事実いろいろあった。しかし、気が付けば、この山里の刀鍛冶(かたなかじ)に嫁いできていたと言う。そして今は、鉄隕石から立派な流星刀を作る、そんな夢を追った夫を支え、かつ子育てに奮闘中とのこと。
 きっとアイサは黒崎に報告したかったのだろう、アイドルを辞めてからの、決して順風満帆でなかった彼女の歴史を。

 そして黒崎は思うのだった。アイサが一番輝いた瞬間に退団を申し伝えた。もし、アイサに陰りが見え始めてからだったとしたら……、きっと自信をなくしたまま、それを引きずり、こんな十年の生き様にはならなかっただろうなあと。

「黒崎さん、これ、夫の流星刀なの」
 アイサが飾り棚から一振りの日本刀を取り出し、黒崎に手渡した。「ほー、ダンナさんとの共同作品だね」と、ずしりと重い刀をかざした。するとその刃面に、アイサが幸せそうに微笑む顔が映る。
 その輝きは、あの時ステージに立っていたアイサの煌びやかさとはまったく違う。それは無心であり、深くて渋い。

 アイサはあの時トップアイドルを極めた。しかし、十年経った今、今度は夫を輝かすために生きている。そう気付いた首切り半蔵、ほっとすると同時に、不覚にも目から……。
 その一粒の涙が──刀に映る元アイドルの像を滲ませ、消し去ってしまうのだった。