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超短編小説  108物語集(継続中)

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 というのも、この教室の壁に一枚の大きな鏡がある。沙里が頻繁に、鏡に映る自分の舞い姿を確認し出した。気が付けば、いつも鏡の前に立っていた。そして何度も何度もそれぞれのポジションでのポーズをチェックし始めていた。
 それからのことだ、沙里の舞いが……、たとえば腕を上げて丸くするアン・オーや片脚で立つアラベスクなど、一つ一つの要素が一段と美しくなっていった。

 そして僕は耳にした。鏡に話しかける沙里の声を。
「里沙! 私、あなたよりもっと上手く踊りたいわ」と。

 僕はその時、良かった、やっと気付いてくれたかとホッとした。なぜなら、とっくに僕は感じてた。少し暗い大きな鏡、そこに映る自分は微妙に自分自身とは違うと。
 もちろんミラーだから左右は異なる。しかし、どことなく他人のような……、いや、もう一人の自分がそこにいるような気がしていた。

 きっと沙里も幼い頃からここへ通い、それを看破したのだろう。だから沙里は鏡の中の自分を――自分とは異なる名前、それはまるで鏡で反転したかのように、『里沙』と呼んだのだ。
 それからのことだった。沙里の静も動も飛躍的に華麗さを増した。こうして十二歳の少女が第3幕ヴァリエーションに挑戦できるまでの上達を果たしたのだ。