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超短編小説  108物語集(継続中)

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 なぜ義男は亮平に対しこんな扱いをしたのか、今もってその理由がわからない。しかし、そこからくる一つの現実は、義男にとって亮平はただのよその家のガキだったのだ。
 それでも多分、これは母子が生きて行くための母の窮余の策だったのだろうか? そのせいか母はいつも義男にすり寄っていた。亮平はそんな母を見るのが幼いながらも辛く、物心がついた頃から人知れず、よくすすり泣いた。

 それからそう月日が経たない内に、義男と母の間に二人の子ができた。これにより明らかに、亮平はこの家族にとって邪魔者となった。
 こんな事態に亮平は決意した。中学卒業と同時に母を捨て、都会に出て一人で生きて行こうと。

 亮平にとってなんの温かみもない家、そこをとにかく飛び出した。そして小さな会社で働き始めた。いつかきっとあの家族を見返してやると馬車馬のように働いた。そんな必死な若造に、社長は親代わりとなり夜間高校を卒業させてくれた。

 青春を謳歌する暇などなかった。ただ汗にまみれる日々が続いた。だがその辛苦を乗り越え、亮平は一端の社会人と成長した。そして社長に暖簾(のれん)分けをしてもらい、独立してみようかと、将来への夢まで膨らませることができるようになった。
「それにしても、なんで今さら……、義男の生命保険て? 俺には受け取る理由がない」
 亮平は何年ぶりかに届いた母からの手紙をぎゅっと握りつぶした。

 翌日、こんなことがあったと社長に報告すると、社長はニコッと笑う。そして、「真奈(まな)さんを連れて、一度お母さんに会いに行ってこい」と促す。
 真奈は婚約者、三ヶ月後に所帯を持つ。中学卒業と同時に縁を切った母であっても、真奈だけは紹介しておいても良いだろう。そして恨み辛みで、いつまでも母に反発している年頃でもない。ここは社長の勧めに従い、亮平は真奈と田舎へと向かう電車に乗った。