超短編小説 108物語集(継続中)
高瀬川亮平へ
随分とご無沙汰ですが、元気にしてますか?
ところで、先月、義男が他界しました。
その生命保険の受取人は、故人の遺言で亮平です。
受け取ってください。
母より
何年ぶりかに届いた母からの手紙、実に簡潔に書かれてあった。
「そうか、ついに義男(よしお)は亡くなったか」
亮平(りょうへい)は忸怩(じくじ)たる思いにもなったが、それにしてもおかしなことだ。
というのも、義男は亮平の父ではない。
確かに、実父が死亡した後、母は幼い亮平を連れて義男と再婚した。それから母の連れ子として、中学卒業まで同じ屋根の下で暮らした。だが義男は亮平を認知せず、同戸籍には入れてくれなかった。
言い換えれば、母は再婚と同時に義男の姓を名乗ることになったが、亮平は実父の姓、高瀬川のままであった。そして現在に至っている。
作品名:超短編小説 108物語集(継続中) 作家名:鮎風 遊