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超短編小説  108物語集(継続中)

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 だが、この近道には難所がある。
 それは約30メートルの区間だけだが、道幅は極端に縮まり、その上に片側が塀。そして、もう一方が川なのだ。
 当然、立て札が立っている。
「危険! 自転車から下りろ」と。

 亮介は知っていた。彼女はこの警告を守っていないことを。
 そして他の人たちも心得ていたのだろう、彼女がその難所に差し掛かってくる時には、そこへとは踏み込まず、手前で待ち、譲ってやることを。
 もちろん彼女はそれに応え、スピードを落とすこともなく、惚れ惚れとするカッコ良さで、難所をさあ〜と走り抜けていく。

 亮介はそんな我が儘な振る舞いをする彼女だが、どことなく愛らしく、この町のプリンセスのように思えて好きだった。

 そして、その朝も……、
 だがちょっとタイミングが合わなかったのか、亮介がその難所の真ん中あたりに来た時に、彼女が猛スピードで突っ込んできた。
 されどもこんな万が一の場面に出くわした時は、無論のことだ、レディーファースト。ヤモリのごとく塀にペタリと貼り付いて、彼女に最大幅の道を確保する。これがジェントルマンとしての作法であろう。