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超短編小説  108物語集(継続中)

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「ドリアンは天国の味、だけど地獄の匂い。ホント臭いっすよ。それにアルコ−ルは飲めませんからね」
 駐在経験のある高見沢は知っていた。ドリアンは確かにチ−ズのように美味。だが精が強いためかアルコ−ルを控えなければならない。胃の中でドリアンとアルコールが相まって発酵し、夜中にうなされる。

 ほとんどアル中の部長に、高見沢はこれを言い訳として訴えた。その上に、新たな提案を。
「花木部長、他に良いお土産がありますよ。そうそう、蘭の花とか、蝶々はどうですか?」
 要は、匂いがきついドリアンの持ち運びはご勘弁願いたいのだ。しかし残念なことに、部長は怯(ひる)まない。
「食べたいんや! 買うてこなかったら、ボーナスはないものと思え!」
 まあ上司というものはすぐに権限を乱用し、まことに我がままなものだ。

 そしてこんな場面に、より不幸が。そう、イッチョカミのお局様が横槍を入れる。
「私もドリアン食べてみたいわ。これからも高見沢君が出世するように、一応、応援するからね」
 同期の、いや今ではお局様のマキコが、入社以来の『君付け』と『一応』を相変わらず外さずに、口をはさんできたのだ。

 高見沢はこんな恐いお二人さまに絡まれて、「ああ、わかりましたよ。鼻がひん曲がるほど……、くっさいドリアン買ってきますよ」と居直らざるを得なかった。