超短編小説 108物語集(継続中)
「直樹、やっと来てくれたのね。私、ここでずっと待ってたのよ」
こう話す祐子の目から涙が零れ落ちる。直樹に、これに答える言葉が見つからない。
「あの時、私、直樹にシュークリーム投げ付けてしまったでしょ、だから謝りたかったの。だけど、あれからいろんなことがあったわ。結局、私の終着駅はここだったの。シングルマザーとなった私を、ここのご夫妻が養子縁組してくださってね」
「そうだったのか」と万感の思いの直樹に、祐子の話しが止まらない。
「直樹と描いた二人の未来予想図、それはまったく違ったものになってしまったわ。だけど……、会いたかったわ」
これに直樹は感情が抑えられなくなった。そして言ってはならないことを。
「祐子、俺は一時たりとも祐子のことを忘れたことはなかった。ずっと好きだった。だからもう一度受験勉強してた頃に戻って、二人でやり直そう」
これは本心か、それとも弾みか? 袋にシュークリームを詰めながら、祐子が泣いている。そしてやっと祐子が重く語る。
「直樹、ありがとう。この間ね、真希さんという方がシュークリームを買いにきてくれたんだよ。だから私、もういいの。直樹以上のもの、世界で一番美味しいシュークリームを作る、そんな天職を見つけたから」
作品名:超短編小説 108物語集(継続中) 作家名:鮎風 遊